シャンシャンシャンのその前に｜リアクション

シャンシャンシャンのその前に

「まだお店やってる？　こんにちは～」
　入ってきた雨崎荒太郎に、朱蘭は悠然と会釈をする。
「いらっしゃいませ、雨崎様。ご要望の商品は？」
「えーと、クリスマスツリーと、大部屋の飾りを……」
「承知いたしました。コーナーにご案内いたします」
　毅然と歩き出す朱蘭に頷き、荒太郎は首をひねる。

「……誰？」

　不真面目でお気楽と思われがちの朱蘭だが、仕事の手際は抜群によい。
　実家の古い酒屋で仕込まれたか、それとももともと素質があるのか。
　接客の挙措、ふるまいは堂々として、品格がある。
　それでいてJoulupukkiの暖かな雰囲気を壊すこともない。
　行き届いた動作、慇懃にならない丁寧さ、じつに一流の風格。

　無駄に接客が上手い、朱蘭の能力が開花した。

　同じ猫鳴館で、酒飲んで騒ぐ朱蘭の嬌態を目の当たりにしている荒太郎にしてみれば、まさに「誰だお前」の様子だった。
　彼に限らず、朱蘭を知る者は、

　「誰だかわからず、ていねいな応対に応える」
→「普段の酒浸さんを思い出す」
→「誰だお前」

　という思考経路をたどって、凝固するのだった。
　そんな中にあって、
　――やはりお姉さんだ！
　すごい！　と素直に感動するのはミルカである。

　――早く酔っ払いに戻りたい。
　優雅な笑みでトイレを案内しつつ、朱蘭は内心で思う。
　酒飲みのポリシーとして、素面を長く持たせたくない。
　――真面目さ以外は、性格そんなに変わらない。
　とは、本人の弁である。

　手早く商品を陳列させながら、ぐっと我慢。