シャンシャンシャンのその前に｜リアクション

シャンシャンシャンのその前に

「……サンタさんにお願い、かぁ」
　人差し指を唇に当て、和穂はじっと考える。
　愛嬌のある、年上の大学生の様子を、夏朝と綾花はじっと見る。

　――お願い、あるんですか？
「うーん」
　口元に手を当てる。頬が微かに上気しているのが、彼女の『お願い』が、どういったものなのかを如実に示している。
　割とわかりやすいほわほわオーラが立ち上っている。
　肉眼で視認できるほど、ほわほわしている。
　非常にわかりやすく『恋する女の子』である。

　お買い物の途中で、気になっていたこのお店に、ふらりと立ち寄っただけなのに。
　真剣に思い悩むことになるなんて、思っていなかった。
　
　――クリスマス、クリスマスかぁ……。
　――クリスマスにかこつけて、プレゼントを渡すのもいいかも……。
　和穂は、最近思い悩むことが多くなってきた。
　何をするのにも、まず躊躇ってしまう。
　散々逡巡し、結局何もしないまま終わってしまうことも多い。

「彼氏が欲しい！　いちゃいちゃしたい！」
　それが少し前までの、彼女の口癖。
　恋に恋して恋わずらい。頭の中で素敵なシチュエーションをぐるぐる回すのが好きだった。
　けれど……。

　Joulupukkiのうわさは聞いていた。本格的な北欧グッズも取り扱っているお店。
　――北欧の素敵な贈り物という触れ込みなら、自然にプレゼントできる……。
　――あんまり押しつけがましくないし……。
「いやいや……」

　迷って店内に入り、サンタポストを前にまた悩む。
　のんびり屋の彼女にも、憂愁の影がふとした挙措によぎる。そんな季節だ。

　まっさらの便せんに、鵞ペン。
　インキに漬して、和穂は硬直する。
（ちょっと前なら「いちゃいちゃしたい」の一択だったんだけど……）
　頬が上気するのがわかる。
　――ううっ、違くてっ。
（……もっと仲良くなりたいなんて、書いちゃってもいいのかなー……？）
　悶絶する和穂に、声がかけられない綾花と夏朝。
　その視線に気づく和穂。
「ほ、ほら！」急に話を振ってみる。「ど、どーせサンタさんが……？　読んでくれるとは……？　限らないし……？
　っていうか、サンタさんってほら、子供じゃないから、ほら？」
　うーん、と思い悩む和穂。
　何だか、すごく恋愛の初歩的なところで、思い悩んでいるような気がする。
　以前、恋していなかった時より、ずっとじたばたしているように思える。
　――目の前の高校生二人は、こんなに迷ったりしないのかな？

　実際のところ綾花も夏朝も、それぞれ割り切れない思いを抱えて、自分の悩みにまっすぐ取り組める和穂の姿を、素敵だと感じ始めていたのだが。

　和穂の視線に、見かけたことのある女性の姿が目に入る。
　城山水樹。木天蓼大学の学生。読者モデルもしているという、有名人だ。
　人生は、後悔少な目！　がモットーだとどこかで言っていた。
　何だろう、みんなが自分より偉く見える。

「なら書いてもいいかな……どうしようかな……」