【クリスマス】星ヶ丘のホーリー☆ナイト｜リアクション

【クリスマス】星ヶ丘のホーリー☆ナイト

　ようやく、落ち着けた。
「冬華さん、ここならもう大丈夫」
　どう『大丈夫』なのかは説明せず、舞い落ちる雪を、桜月は手のひらに受けている。
　雪は彼女の手に触れるなり、じわっと溶けてなくなる。後から後から、降るものすべて。
　月は泣きたくなった。
　あっという間に溶けてしまう雪の綺麗さ、儚さが北条冬華と重なって見えた。
　今日彼女が別の誰かと一緒にいたら――と想像して、ひどく嫌な気持ちにもなっていた。
　気がついたとき、月はしがみつくようにして、冬華の体に両腕を回していた。
「もう私を置いてどこにも行っちゃダメだ」
　はっきりとそう言った。このもどかしい気持ちを伝える手段を、月は他に持たない。
「月さん……」
　何か言いかけて止め、再び冬華は口を開く。
「……さっきは仮面をつけていたけれど、すぐに気がつきましたよ。あの肌の白さは月さんですね、って」
　そうして、冬華は月を抱き返したのである。
「服のせいか少し寒い。でも、寒いですけど、温かいですね……」

　桐野正也と紅双葉は、申し合わせたように同時に足を止めた。
　ふたりの前には、落ち着いたデザインのクリスマスツリーがあった。クラシックなデザインで装飾も控えめながら、うっすらと黄金の光を帯びている。
　ツリーは雪を身に受けていた。
　それをいうなら、正也と双葉も同じだ。
　雪がふたりの肩に、頭に、繋がれた手と手に、しっとりと舞い落ちる。
　正也の胸は張り裂けそうだ。
　もうたまらない。愛おしい。
　彼女のことしか考えられない。
　けれど正也が、仮面をとって言えたのはこれだけだった。
「……双葉ちゃんごめんな、せっかくのクリスマスなのにドタバタしちゃって……」
　――どうしよう、次の言葉がでない……いや、ここで言うんだ！　今日はそのために誘ったんじゃないか！　ここで言えないでどうする！　一言、一言好きって言えれば……。
　桐野正也17歳、彼は自分のたぎる想いが、漫画のフキダシのようになって背後に飛び出していることに気がついていない。ぽんぽん、ぽんぽん、と、フキダシが浮いている。そのフワフワした見た目は、クリスマスツリーに飾る綿製の雪飾りのようだ。
『どうしよう、次の言葉がでない』
『いや、ここで言うんだ！　今日はそのために誘ったんじゃないか！』
『ここで言えないでどうする！　一言、一言好きって言えれば』
　丸聞こえならぬ丸見えである。
「え！？　きりのん先輩も………！？」
　思わず口走ってしまい、慌てて彼女は自分の口を両手でふさいだ。
「え？　先輩もって言った……？」
　すぐに正也も事態を悟った。
「まさか……ギャー！　なんでフキダシが出てんだよ！　一般人が多かったら出ないはずだろ！？　なんで！」
　ちょうどクリスマスツリーの周囲に人がいなかった、そのためではなかろうか。
　あるいは想いが強すぎて、歯止めがきかなかったから……。
　いずれにせよ正也は腹をくくった。当たって砕けろ！
「っ双葉ちゃんのことがっ！　好きですっ！　俺とつきあってください！！」
　少し台詞を噛んでしまったがご愛敬、なぜなら双葉も、同じように噛んでしまったから。
「な、ず、ずるいです………いつもは、へたれさんなくせにっ！」
　顔が真っ赤になってしまったのもご愛敬、双葉は頭から湯気が立ちのぼりそうな気分だ。
　目をギュッとつぶって双葉は大きな声を出した。
「で、でも！」
　そうして恥ずかしさからみるみる小声になりながら、こう言い加えたのである。
「………私も、そんなきりのん先輩が、ずっと前から、好き……でした！」
　これを聞いて正也は思わず飛び上がっている。
　――嘘だろ？　夢じゃないよな……？　や、やった！　すげー嬉しい！！
　その気持ちは言葉にならず、「わおー！」とか「うおー！」という雄叫びになっているのである。
　飛び上がった拍子に、ばさっと包みが落ちた。しまった、と拾って正也はこれを双葉の両腕に渡した。
「ごめん順序逆、かもだけど、その、これ、クリスマスプレゼントな」
「彼氏から彼女への、初プレゼント……ですね」
「おう！　彼氏から彼女への、だ！　気に入ってくれたら嬉しい！」
　中身は、双葉の赤毛に似た色のマフラーだった。
　ぱちぱちぱち、拍手の音が聞こえて、はっとなって双葉と正也はその方向を見た。
　まゆ先生だった。彼女も仮面を外している。
「ふふ……おめでとう、二人とも。祝福するよ」
「先生！　いつからそこに！？」
「えーっと、『わおー！』とか『うおー！』のあたりからかな？」
　誕生直後に公認カップルとなったふたりに、幸あれ。

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【クリスマス】星ヶ丘のホーリー☆ナイト

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