【クリスマス】星ヶ丘のホーリー☆ナイト｜リアクション

【クリスマス】星ヶ丘のホーリー☆ナイト

　ステッラ・デッラ・コリーナでパーティー？
　そんな勧誘を受けて、宮祀智瑜は参加を決めた。
　ドレスに着替え、祖父に送られて会場入りしている。
　なぜってステッラ・デッラ・コリーナは彼女の憧れの場所なのだから。ここで結婚式を挙げるのは彼女の密かな夢だ。
　そうして智瑜が知ったのは、今夜ここで行われるのが、まさしくその結婚式への入り口（？）となるお見合いパーティであるということだった。
　戸惑う……けれども、恋する乙女としてある予感があった。
　もしかしたら、と。
　その予感はまもなく的中した。
　あの人がやってくる。
　桐島義弘先生だ。見間違えようがない。ベネチアンマスクの上に眼鏡をしている。
　仮面越しの智瑜の視線に目を留め、先生は彼女の前に座ってくれた。
「よろしくお願いします」
　先生の敬語を聞くというのは、なんともくすぐったい気持ちだ。
「ええ、よろしくお願いします」
　子供っぽくならないよう、落ち着いた大人っぽくしゃべってみよう。
「ええと、ご趣味は……？」
　いわゆるお見合いということを意識しているのか、義弘は定番通りのことを口にした。
　――先生らしいな……。
　笑ってしまいそうだがそれはこらえて、智瑜はそつなく会話をこなしていく。
　ぽつぽつとわかってきたことがある。義弘は休日、独りで映画を観に行くことがあるという。まれにだが、クラシックのコンサートにも行ったりするらしい。それもやはり独りでだ。学生時代の友人たちとは、仕事の都合もあってあまり付き合いがないそうだ。
　ややこなれたころ、彼女はもう少し、踏み込んだ質問をすることにした。
「女性の好きな仕草とか、あります？」
「特には……いや……こう、手を顎に当てて、考えている姿勢とか、好きかもしれません。変でしょうか？」
「いえ、そんなことは。それから……結婚願望って、ありますか？　こんな場所で伺うのもおかしいかもしれませんけど」
「周囲にはせっつかれています。実はここに来たのも上司の命令です。けれど私自身は……いい相手がいれば、という気持ちですね」
「それと」
　智瑜は思わず身を乗り出してしまう。気持ちがこもりすぎて、言葉がうわずっていた。
「と、年下でも……大丈夫ですか？　その……結婚の、相手として……」
　義弘は静かに微笑した。
「年齢は気にしません」
　良かったー！　と叫びたい心を抑えて智瑜は言う。もうすぐ交代の時間だからだ。
「できればその……行ってみませんか、イルミネーション・スペースに……」

　ロンリーウルフ見参！　と書くと大袈裟かもしれないが、城山水樹としては実際そんな心境である。
　昨年のクリスマスは恋愛資本主義の勝ち組として、それはそれはもう幸せだった彼女だ。
　ところが株価は暴落、というか破産、現在の水樹は恋愛資本主義の負け組を自認している。それも、凄絶な負けっぷりをかました部類に入るだろう。
　そんな次第で今年のクリスマスは、おひとり様も悪くないと彼女は思っていた。……半ば開き直りだが。
　ところが敗者復活戦というのだろうか、ひょんなきっかけ（勧誘）のおかげで水樹は、このステッラ・デッラ・コリーナのお見合いパーティ会場に現れたのである。
　――あれだけ「結構です！」って言ったのになぁ……ドレスコードに合う服なんて持ってなかったし。
　まったく、と水樹はため息をついた。
　恋愛資本主義の荒波は、彼女を放っておいてくれないらしい。セミフォーマルドレスはホテル側がコーディネートしてくれて、とうとう参加者の列に名を連ねている。
　馬鹿馬鹿しいな、という気もしないでもない。
　ネオ巌流島で負け組代表として、ロンリーウルフ宣言をしたばかりというのに、気がついたらここで、また恋愛ゲームに参戦しようとしている。
　ところがそんな風に、気分が滅入って恋愛したい気分ではなかったとしても、やはり水樹にはこういう世界が似合うようだ。正装して出てみれば、元々の美貌にエレガンスが加わって、まるで上流階級の令嬢のように人目を引く存在になっていたのである。
　水樹が席に着くやたちまち、かぐや姫と求婚者の図式さながらに男たちが彼女の前に並び始めた。
　――ま、それならそれで。
　適当に相手して、時間を潰してから引き上げよう。たまには孤独の聖夜を過ごさせてほしいものだ。

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【クリスマス】星ヶ丘のホーリー☆ナイト

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