そのぬくもりをもう一度｜リアクション

そのぬくもりをもう一度

ケース１：とある兄弟の場合（前半戦）

「よぉ！」
「……え？」

　その日、邪衣士は……、ばったりと街中でとある人と出会った。兄の暗道忍である。士にとっては『世界で２番目に会いたくない人』であり、主な理由はからかってくるからである。それはしょうがないと言うべきか。
　因みに『暗道』というのが本名で、『邪衣』というのは母の旧姓であるらしい。そこまでして実家から離れたい理由はともかく、こうして出会った忍はとても元気そうであった。
（何故に？！）
　士は一瞬固まってしまったが、ややあって我に帰り、憮然とした表情を浮かべた。それを見た忍の顔は、折角再会できたのに、とちょっとだけ残念そうな表情に見える。
「ちょっと待て。なんであんたがここに居るんだ」
　厳しく問いかける士だが、忍は表情を明るくし、楽しそうに微笑む。そんなところも変わっていなくて、士はさらに渋い顔になる。
「ん～、どうした？　そんなフウセンウオみたいな顔しちゃってさ？　あ、解った！　そうかお兄ちゃんにあえてうれしいんだな、コイツめぇ♪」
「突付くな！」
　ハハハ、と爽やかに笑って頬をつつこうとする忍の手を払い、士は不機嫌を隠さずあらわしていた。相変わらずの調子である兄に、何故だろう頭痛を覚えてしまう。
「その様子はまた迷子かな？」
「関係ないだろ？！　つーか帰れよ！」
　と、警戒心剥き出しの士。もし熊の皮を被っていたらかなり凄みを利かせていたので物凄く怖いオーラをかもし出していただろう……。それでも忍は明るい笑顔のままかもしれないが。
「あー、そうそう！　っと何でここにいるのかだったな」
　ぶっきらぼうな態度を取る士に、忍はにっこり笑う。士はどんな言葉も聞き漏らさぬよう耳を欹（そばだ）て身構える。
「まー、警戒されても仕方ないよなぁ。何でここにいるのかって？　見てのとおり連れ帰るためだ！」
「っ？！」
　忍の言葉に反応し、士の背中に冷たい汗が流れる。だが、忍はそこで言葉を切り、苦笑した。
「……というのは、冗談だ」
　その言葉にほんのちょっぴり胸を撫で下ろす士だったが、次の瞬間、がっしりと肩を掴まれた。そして忍は、実にいい笑顔をしていた。
「でもな、ちょっとだけ付き合え、つー君。拒否権？　なしだ」
「離せ！　そしてその名で呼ぶな！」
　士は抵抗しようとした。どうにか体を捻って逃れようとした。けれども、忍の手は離れない。結局忍に敵わず、忍によって連行され近くにあったカフェへと連れ込まれるのであった。
「離せ馬鹿兄貴！」
「あはは、こっちだよ～」
　こんな風にカフェへ引っ張り込まれた士の運命やいかに！

（後半戦に続く）

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