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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
そのぬくもりをもう一度
ケース４：とある兄弟の場合（後半戦）
「で、こんなところに連れ込んでどういうつもりだよ？」
兄である暗道 忍によりカフェへ連れ込まれた邪衣 士は、カフェの一番奥の席に座り、物凄く不機嫌そうに問いかけた。忍は運ばれてきたコーヒーに手をつけないまま、にこやかに笑う。
「ん？ あぁ。最近、調子はどうよ？」
「調子はどうかって？」
そのおちゃらけたようにも聞こえる声色に、士の表情は更に険しくなる。周りの空気がぐっ、と冷え込んだように感じたのは気のせいだろうか？ 確かに士は天候に作用するろっこんを持っているが、現在使った様子は無い。
「ただでさえ色々あって酷い胃痛が兄貴のせいでマッハだよ！ てか何こんなところでのうのうとしてるんだ！ あのバカ親父だけ残して何やってんだよ？」
店内という事もあり音量は押さえてはいるものの、声には苛立ちを通り越して怒りが滲んでいた。変声期ごろのややくぐもった声ではあるが、それなりに迫力がある。だが、忍は動じずにハハッ、と笑うと、軽い調子で言葉を紡ぐ。
「俺は見てのとおりさ。家の事？ 敏腕な連中にオヤジを補佐させてるから大丈夫だ。何も問題ないさ」
「親父はともかく他の人たちに迷惑かかるだろうがっ」
士がさっさと帰ってくれ、と言わんばかりに強めに言うが、そこで忍はにぃ、とおかしそうに笑い、目を細めた。
「てーかさ、家とは縁を切った奴がなに心配してるんだよ？」
「なんだよ、いきなり……」
士は急に言われた言葉に、怪訝そうな表情を浮かべる。彼は疑問に思いながらも忍の目を見た。
「俺が許せないのは親父であって自分じゃ……」
けれども、そこまで言いかけて、士は噤んだ。彼の中で何かが言葉を引きとめ、否定する。そんな様子の士に、忍は「やれやれ」と肩を僅かに竦めた。
「その様子だと原因は理解できたみたいだな。なぁ、士……そんなに自分が許せないのか？」
兄の問いかけに、士は瞳を閉ざす。落ち着かせようとオレンジジュースを飲み、静かに過去の事を振り返った。
母親が、治療を拒否した原因が自分である事と、何も知らないまま父親に怒りをぶつけていた自分。そうする事しかできない自分の事を許せないのは事実である。
（けど俺は！ 俺、は……）
しばらく考えていた士は、目を開け、ゆっくり顔を上げた。そして、心底不思議そうに忍を見る。
「親父も兄貴も、……俺が憎くないのか？」
その言葉に、忍の目が見開かれ……ややあってくすり、と笑った。その仕草が僅かに士を困惑させるが、忍は穏やかな顔で口を開く。
「親父は気にもしてねぇ。むしろ、一人で上手くやってるのか心配してるぞ？ 俺については、まぁ、察しろ」
「またそれかよ」
士が不機嫌そうにそういうも、忍はもう一度肩を竦め、１つ頷く。その顔は、どう見ても弟を心配する兄の顔だ。
「士、お前はもっと前を見て生きろ。……お袋の気持ちを無駄にしたくないなら、な？」
「えっ？」
きょとん、とした士に、忍はにこっ、と笑う。そして、わしゃわしゃと士の頭を撫でると席を立った。
「ちょっ？！」
「親父から伝言だ。いつでも帰って来い、むしろ顔見せてくれだってさ。んじゃ、俺は失礼するぜ」
そう言って、忍は指をひらひらさせて立ち去る。その背中を見つめ、士はため息を吐いた。
（いつでも帰って来い、か……）
士は兄の言葉を脳内で繰り返し、春先にでも戻ってみようかな……と考えたが、ある事に気付き慌てて兄を追いかける。
「って待てコラッ！ 金払っていけよ！」
こういう所があるから忍が苦手な士だったが、ここでふと疑問が沸き起こる。
（つーか、兄貴よ。今まで何してたんだ？）
喫茶店を出た忍は、何気なく空を見上げながら考え事をしていた。
（考えたら俺にもあんな時期があったな。お袋のときはそうでもなかったが、あの時は堪えたなぁ）
ふと、足を止めると、花屋があった。忍は小さく頷く。
（帰りに、お袋の墓と一緒にあの人の墓にでも寄ってみるかな。あと親父に報告しておくか）
左目をさすりながら、忍は士の顔を思い出し、思わず笑うのであった。
何気ない日の中に毀れる、あたたかな思い。どんなに離れていても、家族はどこかで繋がっている。そんな事を感じさせるように、胸の中のぬくもりは、しばらくの間つづくのだった。
（終）
「で、こんなところに連れ込んでどういうつもりだよ？」
兄である暗道 忍によりカフェへ連れ込まれた邪衣 士は、カフェの一番奥の席に座り、物凄く不機嫌そうに問いかけた。忍は運ばれてきたコーヒーに手をつけないまま、にこやかに笑う。
「ん？ あぁ。最近、調子はどうよ？」
「調子はどうかって？」
そのおちゃらけたようにも聞こえる声色に、士の表情は更に険しくなる。周りの空気がぐっ、と冷え込んだように感じたのは気のせいだろうか？ 確かに士は天候に作用するろっこんを持っているが、現在使った様子は無い。
「ただでさえ色々あって酷い胃痛が兄貴のせいでマッハだよ！ てか何こんなところでのうのうとしてるんだ！ あのバカ親父だけ残して何やってんだよ？」
店内という事もあり音量は押さえてはいるものの、声には苛立ちを通り越して怒りが滲んでいた。変声期ごろのややくぐもった声ではあるが、それなりに迫力がある。だが、忍は動じずにハハッ、と笑うと、軽い調子で言葉を紡ぐ。
「俺は見てのとおりさ。家の事？ 敏腕な連中にオヤジを補佐させてるから大丈夫だ。何も問題ないさ」
「親父はともかく他の人たちに迷惑かかるだろうがっ」
士がさっさと帰ってくれ、と言わんばかりに強めに言うが、そこで忍はにぃ、とおかしそうに笑い、目を細めた。
「てーかさ、家とは縁を切った奴がなに心配してるんだよ？」
「なんだよ、いきなり……」
士は急に言われた言葉に、怪訝そうな表情を浮かべる。彼は疑問に思いながらも忍の目を見た。
「俺が許せないのは親父であって自分じゃ……」
けれども、そこまで言いかけて、士は噤んだ。彼の中で何かが言葉を引きとめ、否定する。そんな様子の士に、忍は「やれやれ」と肩を僅かに竦めた。
「その様子だと原因は理解できたみたいだな。なぁ、士……そんなに自分が許せないのか？」
兄の問いかけに、士は瞳を閉ざす。落ち着かせようとオレンジジュースを飲み、静かに過去の事を振り返った。
母親が、治療を拒否した原因が自分である事と、何も知らないまま父親に怒りをぶつけていた自分。そうする事しかできない自分の事を許せないのは事実である。
（けど俺は！ 俺、は……）
しばらく考えていた士は、目を開け、ゆっくり顔を上げた。そして、心底不思議そうに忍を見る。
「親父も兄貴も、……俺が憎くないのか？」
その言葉に、忍の目が見開かれ……ややあってくすり、と笑った。その仕草が僅かに士を困惑させるが、忍は穏やかな顔で口を開く。
「親父は気にもしてねぇ。むしろ、一人で上手くやってるのか心配してるぞ？ 俺については、まぁ、察しろ」
「またそれかよ」
士が不機嫌そうにそういうも、忍はもう一度肩を竦め、１つ頷く。その顔は、どう見ても弟を心配する兄の顔だ。
「士、お前はもっと前を見て生きろ。……お袋の気持ちを無駄にしたくないなら、な？」
「えっ？」
きょとん、とした士に、忍はにこっ、と笑う。そして、わしゃわしゃと士の頭を撫でると席を立った。
「ちょっ？！」
「親父から伝言だ。いつでも帰って来い、むしろ顔見せてくれだってさ。んじゃ、俺は失礼するぜ」
そう言って、忍は指をひらひらさせて立ち去る。その背中を見つめ、士はため息を吐いた。
（いつでも帰って来い、か……）
士は兄の言葉を脳内で繰り返し、春先にでも戻ってみようかな……と考えたが、ある事に気付き慌てて兄を追いかける。
「って待てコラッ！ 金払っていけよ！」
こういう所があるから忍が苦手な士だったが、ここでふと疑問が沸き起こる。
（つーか、兄貴よ。今まで何してたんだ？）
喫茶店を出た忍は、何気なく空を見上げながら考え事をしていた。
（考えたら俺にもあんな時期があったな。お袋のときはそうでもなかったが、あの時は堪えたなぁ）
ふと、足を止めると、花屋があった。忍は小さく頷く。
（帰りに、お袋の墓と一緒にあの人の墓にでも寄ってみるかな。あと親父に報告しておくか）
左目をさすりながら、忍は士の顔を思い出し、思わず笑うのであった。
何気ない日の中に毀れる、あたたかな思い。どんなに離れていても、家族はどこかで繋がっている。そんな事を感じさせるように、胸の中のぬくもりは、しばらくの間つづくのだった。
（終）
あとがき
担当マスター：
菊華 伴
ファンレターはマスターページから！
菊華です。
今回はほのぼの、家族の話をお届けいたしました。
ほっこりしていただければ幸いです。
因みに、こういった家族での団欒はもうちょっと工夫した上でまたやりたく存じます。
よろしくお願いします。
今回はほのぼの、家族の話をお届けいたしました。
ほっこりしていただければ幸いです。
因みに、こういった家族での団欒はもうちょっと工夫した上でまたやりたく存じます。
よろしくお願いします。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
-
- 2016年06月03日
- 参加申し込みの期限
-
- 2016年06月10日 11時00分
- アクション投稿の期限
-
- 2016年06月10日 11時00分
