師走の月夜に、向日葵走りて｜リアクション

師走の月夜に、向日葵走りて

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――戦い済んで、『向日葵』にて。
「とにかく皆さんにご迷惑をおかけしてしまったようで……！」
ぺこぺこと、救急箱と甘味の乗った盆を手に走り回りながら何度も何度も日向は頭を下げる。
どうやら彼女には、ひまわりに拉致された直前までの記憶しかないらしい。
だから何があったのかは全くわからないが、目を覚ましたら心配そうにしている面々に囲まれていた、と。
しかも負傷している人も居て、なんだかよくわからないがとにかく自分が迷惑をかけてしまったということだけは理解していた。
なのでせめて、手当とお礼の甘味をごちそうするくらいはしようと走り回っているところである。
「いやいや、でも日向さんが無事でよかったよ」
お茶を飲んでほっと一息、安堵の息と共に若菜が漏らす。
「うん、本当に……よかった」
口元を緩める月の手元には、デザインノート。あり得ない光景を前に思いついてしまったデザインを、忘れないうちに書き留めているところである。
「ここの甘味が味わえなくなったら、一大事だからね」
ようやく目当ての甘味にありついて、サキリが微笑する。
疲れた身体に、優しい甘さがしみこんで心地いい。
「うーん、でもあのおっきなひまわりを調べられなかったのは残念ですねー」
すっかり元に戻ったひまわり畑を見やり、梢は少しだけ不満げに呟いた。
神魂生物には謎が多い。気付いていないだけで、ただの神魂のイタズラ以上の何かがあるかもしれないのだ。
戦いが終わったら、ゆっくり調べて……と思っていたのだが。
巨大ひまわりが斬られた直後、全てはあっという間に元に戻ってしまったのだ。
残念無念である。
「結局、あいつらは夏が待てなかったってことでよかったのかね」
楓の疑問に、記士郎が小さく頷く。
「おそらくは、そうなんだと思います」
あるいは、日向の思いに応えたかったのかもしれない。……神魂のイタズラで、色々とおかしくなってしまったようではあるが。

そんなやり取りが交わされる中、一人だけ何故か沈んでいる男が居た。
不二夫である。深く深く、重ーいため息が口からこぼれる。
「……はーぁ……１２月だっつーのになにやってんだ俺は、勉強しねーとイケねー時期だろうが…………」
そんな彼に、申し訳なさげに日向が小声で声をかける。
「あのう……本当に、すみませんでした」
そっと置かれたのは、彼が好きな饅頭の乗った小皿。
それを一つ手にとって、不二夫はかじり付く。
（……けどま、見てみぬ振りするよりかは、悪い気分じゃねーな）
饅頭の甘さを味わいながら、心の中でひとりごちるのであった。

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