寝子島大橋をわたって～晩秋｜リアクション

寝子島大橋をわたって～晩秋

　味のある和風喫茶店で一息ついた城山水樹は、名物の抹茶ラテを味わいながら、この日デジカメで撮った写真を確認していた。
「鎌倉は、町並みも風情があるわね」
　名所旧跡だけでなく、商店や民家も落ち着いていて趣がある。目的もなくぶらりと歩き回るのも悪くない。喫茶店を出たら、ゆっくりいろんなお店を見て、お土産でも探そうかな。
　店を出たとき、水樹は背の高い男性に声をかけられた。
「お姉さん、一人？もしよかったら……」
「ごめんね。今日は一人でいたいの」
　水樹ははっきり、しかし感じが悪くなりすぎないように断った。今はそんな気分じゃない―――11月になるのに、夏の失恋をまだ引きずっている自分に気づく。

　鎌倉大仏を拝んだ時高クレオは、続いて長谷寺にやってきた。
「こんなに大きなお寺初めてだわ。まさに観光地ね」
　クレオは、広い境内を見渡しながら言う。
「お寺なんだからパワースポットよね、たぶん！」
　お寺イコールパワースポットで、パワースポット巡りは大人っぽいという連想ゲームだった。大人っぽいことが、何より重要なのだ。
「見晴台があるらしいから、そこを目指してみよう」
　クレオは軽やかな足取りで見晴台のほうに向かう。
「どんな景色が見れるかしら……まだ紅葉って見れるかな？」
　一人で見晴台から降りてきた女性が、クレオのつぶやきを聞いて答えた。
「さっき見てきたけど、すごく紅葉綺麗だったわよ。写真も撮ってきたわ」
　城山水樹は、そう言って自分のデジカメを見せた。
「そうなんですか？すっごく楽しみ！」
「あなた、中学生？一人でお寺観光なんて、大人っぽいわね」
「えっ」
　嬉しいことを言われたクレオは一瞬立ち止まる。『大人っぽい』って言ってもらえた！しかも、とても大人っぽいお姉さんに！

「今日はとっても充実した一日だったわ！」
　お土産屋で買ったイチゴの形のお守りを大事に抱えて、クレオは駅に向かった。
「鎌倉散策だなんて……それに『大人っぽい』って言ってもらえて……ふふふ、クレオってばまた大人の世界に近づいたわね！」

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