木天蓼大学の日常　～大学終わった後、何してる？～｜リアクション

木天蓼大学の日常　～大学終わった後、何してる？～

【大学終わった後は、すやすや？】

　冬も近づいているが、暖かい日差しが寝子島の木天蓼大学キャンパスを照らしている。
　いつもの日常が、今日もまた行われるのだ。
　さて、キャンパス内の図書館では、一人の女性が英語辞書コーナーの近くの机に突っ伏していた。
　広げられたノートや教科書から、どうやら英語の課題の最中にそのまま眠ってしまったようだ。
　時計の針はすでに一六時を過ぎ、やがて授業終了を告げるチャイムが鳴る。
　寝ている女性……桧垣万里はその音に煩わしそうにむずむずと身体を動かした。
　腕に乗せた頭が少しだけ右を向き、だらしなくよだれが落ちていく。
　三限で授業が終わった彼女は、明日までの英語の課題で図書館に来たのだが、ちょっとした油断で……ご覧の通りである。
　すーすーと時折漏れる寝息に、その呼吸に合わせて動く髪がさらさらと流れていく。
　とても気持ちよさそうである。
　そんな万里の様子をうかがっている人がいた。
（Wow！　よだれ垂れてるのもCuteだな）
　そんなことを思って、くすくす笑いながら近づいていく。
　その人の名は十二月晦日杏。
　目の前で寝ている人と同じように明日の英語の課題をやりに図書館に来たのだが、その結果寝ている万里と遭遇してしまった。
「……さて、どうしたものか」
　杏はそんな万里をみてちょっと悪戯心が生まれた。
　指で右頬つんつんとつついてみる。
「あう……うにゃむにゃ」
　ころん、とそれを嫌がるように左側に器用に首の場所を変える。
　万里は良い夢を見ているのか、幸せそうな表情である。
「オーケー。Lesson１！」
　そんな万里に何か思いついたのか、そっと耳に口を近づける杏。
「Ask not what your country can do for you, ask what you can do for your country」
　杏はぼそぼそとある文言ささやく。
　抑揚無く呪文のように、無駄にイケメンボイスで、じっとりと英語をささやくのだ。
　歴史に詳しい、あるいは英語の例題でいくつも出てくる名文が、万里の頭にささやかれていく。
「け、ケネディ？！」
　ばこん、と跳ね起きる万里。
「Hallo？　もしかしてお疲れかい？　それとも苦手な科目やってると眠くなるっていう俺と同じTypeかな？」
「！！！ひ、ヒナシさん！？おはようございますっ！！！」
　にこやかに話しかける杏はどうやら名字からヒナシさんと呼ばれているようだ。
　対して、あわあわと慌てながら起き上がる万里。
（バイト無くて助かった……じゃなくて！　あぁぁあああ見られちゃった！　寝てるの見られちゃった）
　醜態をさらした万里に杏から追撃がかかる。
「最近、barの時のように素の万里ちゃんをよく見掛けてる気がするね！　No　problem！寧ろ俺はそっちの万里ちゃんもprettyだと思うよ？」
　どこか楽しそうな声に、万里はがくりと力を抜いて、椅子にもたれかかった。
「うぅ……英語の課題の最中に眠ってしまったんです」
　どこか疲れた声で言う万里。
「あっ君も課題あるんだね！なら一緒にどうだい？　俺、英語はそれなりに得意だから教えられるよ！」
　ウインクしつつ杏が言う。
「え、本当ですか？　ありがとうございます！」
　手を合わせて嬉しそうに言う万里。
（会話の中にもちょくちょく英語混ざってるし、英語やっぱり得意なんだ。それになにより、１人だとすぐにやる気がなくなってまた寝ちゃうから、一緒にいてくれたほうがありがたいわ……）
　その心の中では、心底ほっとしていたのだが……。
「そういや万里ちゃんは普段は何してるのー？バイトとか？俺は課題なかったらスケボーしに行こうと思ったんだけどなと思ってたんだけどな」
「バイトしてますよ。もしよかったら、今度うちのお店にきてください。お礼におごります」
　課題を順調に終わらせていく万里。
　話をしていく杏……。
　やがて、ふたりは課題を終えると外に出るのだが、司書の人に。
「今日は人が少なかったからとがめなかったけど静かにね」
　とちょっと注意されたのであった。

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