焚き火のある光景｜リアクション

焚き火のある光景

　火を見て火が付いた。……言い換えると、焚き火が燃えているのを見てやる気が高まった。
「とっとと燃やしてしまおうホトトギス」
　きゃほーと雄叫び（？）あげて、伊賀解理はどんどん火に燃料をくべていく。
「燃えろ～。ここに集った者たちの思いを乗せて燃え上がれ～」
「あ、うん……」
　解理のパワフルさに気圧されながら、串田美弥子もちびちびと、持ってきた日記帳などを破り破り火にかけていくのである。これを見つけて、
「おっ、黒歴史が快調に燃えていっているね！　串田氏！」
「しーっ！」
　美弥子は唇の前に指を立てる。彼女としてはできるだけ迅速に、できるだけ注目を集めずに燃やしてしまいたい。ところがそういう意図は解理のほうには全然ないので、
「この火によって様々な思いが天に昇ってると考えたら願いごとをしたら叶いそうな気がしないかね？」
　などと大きな声で問うのである。（この声を聞き、少し離れた場所にいる剣崎エレナがびくっと派手な反応をしたのだが、それはまた、別の話である）
「せっかくだから願うかい？　この哀れなほど薄っぺらな装甲がもう少しマシになるようにとか！」
「解理ちゃん、新手の羞恥プレーみたいなのもうやめてー！」
　美弥子は怒濤の勢いで涙を流している。もう世界一の滝はナイアガラ瀑布か、いまの美弥子かというほどに。
　さすがに気の毒になったか、ここでちょっと解理は声を落とした。
「まあ今燃やされてる物も悲喜こもごも至ってこうなったわけだが……」
　そして見回す。
　エレナが背を丸めてこそこそと、焼いているのはなんだろう。
　どうして鷹取洋二は、炎に向かって敬礼しているのか。なにか重要なものでも焼いたのか。
　あそこにいる中学生くらいの子（青木慎之介）は、座り込んでノートみたいなものを読んでいる。そして読み終えた一ページ一ページを、異様に真剣な表情で破りとって火に投げ込んでいる。
　それぞれの事情があるだろう。それぞれの人生が、火にくべられているに違いない。
　感慨深げに解理は言うのである。
「だが、どんな物だろうと等しく燃やして明日への活力……糧とする、と考えたら悪い意味ばかりじゃないと思わんかね？」
「糧？」
　美弥子は、解理がまるで外国語でも突然話し出したとでもいうかのような顔をしている。
「僕らだってこうして燃やした物を使って……ほら、焼き芋という明日への糧としているだろう？」
　といって解理は、すでに火が終わり煙だけ出ている地点から、火ばさみで何か取り出したのである。
「では、色んな思いが詰まった焼き芋を一緒にいただこうか」
　アルミホイルでくるんだサツマイモだった。
　これを見て、さっきまで泣いていた美弥子がまるで山の天気のように、ころっと笑顔になったのであった。
　――まあ僕が活力を得ようと思ってるのは自分のためというより『彼』のためという意味合いの方が強いけどね……。
　さすがにこの思いまでは、解理も口には出さなかった。

　八神修のところはかなり序盤から芋を焼いていたので、そろそろできたものが出始めていた。
「ほら、これなんかはもう食べ頃だ」
　濡らした新聞紙で芋をくるんで、修はこれをあおいに手渡す。
「ありがとう。夏朝ちゃんたちは？」
「僕は後でいいよ。七夜さんは急ぐんだよね……？　先に食べてよ」
　恵御納夏朝はミストを抱きながら首を振った。本日あおいは昼過ぎから用事があるということである。だから彼らは全体的に早回しで行動しているのだった。元々用があるのに時間を作って、わざわざ来てくれたあおいに、修は頭が下がる思いだ。
「ごめんね。いただきます」
　ふーふーとよく吹いてから口にしたものの、やはり熱かったらしくあおいはケホケホと咳き込んでいる。
「慌てなくったっていいのに」
　修はあおいの芋を支えて、空いた方の手で背中を叩く。
「うー、ごめん、ありがと」
　――おおっ！
　椿美咲紀は内心、声を上げていた。
　意図的にそうしたわけではない。それはわかっているが目を見張らずにはいられない。このとき修とあおいは、手（と芋）を握り合って互いに見つめ合う格好となっているではないか！
「こ、これは、祝杯ならぬ祝芋ということで、恵御納さんもこのサツマイモさんをどーんと食べるのです。繊維質たっぷりでダイエットにも良いのですです！」
「え？」
　夏朝は思わず、胸元のミストと顔を見合わせる。
　美咲紀が盛り上がる意味はなんとなくわかったが、祝芋とダイエットのほうはいまいちピンとこない。

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