１１月の★ハッピーバースデー｜リアクション

１１月の★ハッピーバースデー

☆５日

　放課後学校を出た御巫時子は、ろっこんで鳥たちに声をかけていた。
「今日は尚輝先生の誕生日なのでお祝いをしたいと思ってます。時間があれば来てくれませんか」
『生まれた日？　人間はそんなものを祝うのかねえ』
『よく覚えているね、次々に新しい子が生まれてくるのに』
　鳥たちは首を傾げていた。

　一度家に鞄を置いて、小さな手作りケーキとプレゼントを持って再び学校に向かった。
　理科室でコーヒーを沸かし、外出した先生を待つ。
　聞きなれた足音が聞こえてきた。
　ガラッ、と扉が開くとともに、時子はクラッカーを鳴らす。
「誕生日おめでとうございます……！」
　五十嵐尚輝先生が口を開けてこちらを見た。
「誕生日……えーと、僕のですか」
　机にはケーキと温かなコーヒーが並んでいた。ケーキにはローソクが３４本。
「はい。それから、今日は私も誕生日なんです。一緒の時間を過ごせたら嬉しいです。どうぞ」
　先生に椅子を勧め、理科室の暗幕を閉めて時子はバーナーでローソクに火をつけた。
　部屋の明かりを消して、誕生日の歌を歌いだす。
「先生、ローソクの火を消して下さい」
　黙って聞いていた尚輝先生は、首を横に振った。
「まず御巫さんが吹き消してください。僕のほうがローソクの数が多いですから」
　頷いた時子は真剣な表情になり、思い切り息を吸い込んだ。そしてローソクに息を吹きかける。
　炎が揺らめき、何本かの火が消えたが、ほとんどが残っていた。
「先生、お願いします」　
　五十嵐は息を吸い込んだまま、しばらく動かない。
「先生？」
　次の瞬間、五十嵐の吹いた一息がローソクの炎を吹き消した。
「すごいです、先生……！　お誕生日おめでとうございます……」
　時子が拍手した。
「御巫さんも、おめでとうございます」
　五十嵐の言葉に、一緒の誕生日でよかった、としみじみ思う時子だった。

　五十嵐が立ち上がり電気をつけると、時子も暗幕を開ける。
　窓辺にはさっき声をかけたシジュウカラが来てくれていた。
「お祝いに来てくれたんですね」
　鳥たちはお祝いするように歌い始める。
　二人はしばし窓辺で鳥の声を聞いた。
　席に戻り、二人はコーヒーで乾杯した。
　ケーキを切り分けて、食べ始める。
「美味しいです……」
　時子は先生へのプレゼントを取り出した。
「手編みなので不出来なところもあるかもしれませんが……外出される際は使って頂けると嬉しいです。風邪をひかないように」
　プレゼントは何にしようか一生懸命考えて、元気で研究をするために暖かくしてほしいと思いついた。
　頑張って編んだ、落ち着いた緑色のマフラーと手袋。
「ぴったりですね」
　手袋をはめた五十嵐が少し不思議そうに言った。
「手触りも良くて暖かい。なくさないように気をつけます」
「よかったです」
　最近ずっと尚輝先生の手を観察していた成果があったようだ。　
　コーヒーの香りの中、幸せな時間が流れた。
「去年の誕生日はどうされてたのでしょうか？」
「どう、とは」
「今日みたいにどなたかとお祝いをされてたのでしょうか？」
　今までの誕生日の思い出を聞いてみたい、と思い時子は尋ねる。
「さあ……忘れてしまいました。大人になってからは特別なことはしなかったと思いますね」
「３４歳ですよね。３４歳になって何かしたいことはないでしょうか？　目標・挑戦してみたい事など……」
　時子に聞かれ五十嵐は首を傾げた。
「特にありません。別に昨日と何か変わったわけではないので。挑戦してみたいことは……そうだ、実験をしたいです」
　急に五十嵐が立ち上がった。やりたい実験を思い出したらしい。
（尚輝先生らしいです……）
　片付けは次の朝早く来てしましょう、と時子は思った。

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