１１月の★ハッピーバースデー｜リアクション

１１月の★ハッピーバースデー

☆３日

「できたー！」
　文化の日の朝。小学三年生の椎名あさひは、ホットケーキミックスで作ったカップケーキを綺麗にラッピングした。
　お母さんと一緒に作ったものだ。
「ピーターおじさんのおたん生日おいわいしなきゃー！　おべん当もケーキもリュックにつめこんでっと」
　元気にシーサイドタウンの家を出る。
「２眼レフももったし待ち合わせ場所に出発だー！」

　イタリア系米国人の自称写真家、ピーター・ビアズリーは、茶色い髪に寝癖をつけて待ち合わせ場所の公園にいた。
（いつだったか誕生日の話をしたらそれを覚えていてくれて、お祝いしてくれるという。いやあ嬉しい話だねえ）
　お団子頭が見えた。リュックを背負った小さな友人が駆けてくる。
　息を切らして、でも楽しそうに。
「おはよう、おじさん。じゅんびをしてたらやくそくの時間ギリギリになっちゃった」
「おはよう、あさひ君。私も今来たところだよ」
　ピーターもにっこりする。
「おたん生日、おめでとう！　あさひプロデュースのピクニックのはじまりだよー」
「ありがとう。あさひ君に誕生日のお祝いをしてもらえるなんて、光栄だねえ。どこにいくのかな？」
「こっちだよー」
　ピーターはあさひに手を引っ張られて歩き出した。
　４３歳と８歳。親子か親戚に見えるが、二人は年が離れた友人なのだ。

　あさひがピーターを連れてきたのは旧市街。猫が多い場所だ。
「寝子島に来てからあちこち見て回ったけれど、知らない場所はまだまだ多いし、ここで生まれ育ったあさひ君のおすすめの場所というのはどんなところなのか興味津々だね」
「ちょっとせまいけど、かき根の間をくぐるよー」
　ピーターは上着を脱ぎ、あさひの後に続いてどうにか垣根を潜り抜ける。
「つぎは水たまりをとびこえていくよー」　
　ちょっとした探検のようだ。
「ちょっとおじさんが通るには狭くて大変な道もあるようだけれど、それもまた楽しいねえ。いったいどこまで行くのかな？」
「すぐそこだよー」
　見れば、猫がたくさん集まっていた。
　白いの、黒いの、茶色いの、太ったの、やせたの……様々だが、喧嘩をすることもなく和やかに日向ぼっこしている。
　ピーターの姿を見ても逃げようとしない。
「ネコさんの集会所だよ。ぽかぽかひだまりに集まってるネコさんたち、かわいいでしょう」
「これは可愛いねえ」
　ネコさんを見ているピーターを、あさひはこっそり写真に収めた。
　ピーターもまた、カメラを猫たちに向けるのだった。

「次はもうすっかり秋の色な九夜山の方に行くよー」
「九夜山か、そういえば前に」
「前におじさんと青い鳥さんさがしに来たときはまだ夏だったねぇ」
　落ち葉を踏みしめ、元気いっぱいに山道を歩くあさひ。
「ああ。あの時は暑かったなあ。あ、転ばないよう気をつけておくれよ」
　ピーターはマイペースについていく。
　秋の山のケシキをながめるおじさんも、あさひは写真に収めた。
「前みたいに湖の所でおべん当にしよう」
「ああ、三夜湖は景色がいいね」
　三夜湖にたどりつくと、あさひはリュックからお弁当とケーキを取り出した。
　おにぎりには海苔でかわいらしく耳や目鼻がつけられている。
「お母さんのネコさんおにぎりのおべん当と、デザートはカップケーキ。ケーキはあさひもいっしょに作ったの」
「へえ、このケーキあさひ君が焼いてくれたんだねえ。形も飾りつけも可愛らしい」
「えへへ、味もおいしいよ」
「あさひ君とっておきの場所と、ケーキと。なんてすばらしい誕生日プレゼントだろうね。こんなふうにお祝いをしてくれる友達を持って、私は幸せものだねえ」
　そう言うピーターに、あさひは歌いだした。
「ハッピーバースディ　ツーユー♪」
　ひとしきり歌うとあさひは笑った。　
「歌は苦手だけどおたん生日の歌がプレゼントだよ。これからもよろしくね」
「ありがとう、こちらこそよろしく」
　食べ終わると、ピーターは紅葉の三夜湖をカメラに収めた。
「日本の紅葉は本当に綺麗だねえ」

「ありがとう、あさひ君。おかげで素敵で想い出深い一日を過ごすことが出来たよ。かみさんにも話してあげないとねえ」
　夜には本土に住んでいる妻と愛犬の元に帰る予定だ。
　夕日の中、二人は帰途につく。　
（よろこんでくれてよかったなあ）
　あさひは、大すきなおともだちのトクベツな日を楽しい一日にできたことが嬉しかった。　

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１１月の★ハッピーバースデー

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