【お三夜】にゃんと奉納猫レース！｜リアクション

【お三夜】にゃんと奉納猫レース！

　奉納猫レースが始まって、真っ先に漁港に向かう猫がほとんどいう中で、一匹全然違う方向に進んでいる猫がいました。
　もしこれがちくわなら美味しいかもしれない、白地に黄金色の毛色。背中には昴模様。
　そう、ご存知ちくわくんこと、新井すばるです。
　ここからなら、勝手知ったる家に向かった方がよかろう、と思ったのです。
　なんせ、彼の家は魚屋『魚新』ですから。
　的確にサンマとちくわを見つけると、パクッとくわえて毎度あり～。
　と思いきや、目の前に立ちはだかるのは店番の者。
「ボ、ボクだよ、ボク！」
　と目で訴えてみるも、意味はありません。
　昼ドラでもないのに、この泥棒猫～なんて言われて追いかけられてしまいました。
（泥棒猫じゃないよー。わ、悪く思わないでー）
　と心で叫びなら、なんとかかわすと店の外へと逃げ切りました。ふう……。
　いつもの店も、猫の体になると案外違ったものに見えてしまいます。何度もぶつかったり、転んだりしながらの逃走劇でしたが、旧市街の町中に立つすばるの口元には、しっかりとサンマとちくわがくわえられていました。

　さあ、ここからが勝負です。
　トップ集団を見ていきましょう。

　天満七星は、既に駅を越えていました。
　しかし、旧市街の道を知ってはいても、改めて猫の視点で見るとまた感じが違うものです。
　今、彼女の目の前にあるのは車道です。
　しかし遠回りして裏道にすれば、車の通りはほとんどありません。
　さて、どちらを選ぶべきか。
　しばし迷いますが、猫になった七星は普段抑えている衝動的な、野性的な精神が呼び覚まされたのかもしれません。
「車道を行きますわ！」
　持ち前の慎重さは保ちつつですが、七星らしからぬ大胆な選択です。
　神社を目指して、車道を走り出しました。
　車に気をつけながら……と言ってるそばから、危ない！！！
　車体の下をくぐり抜けるような形になって、排気ガスをもろに食らうものの、なんとか無事に進むと、車道の脇に体を寄せます。
　ここを普段は味わえない低い視点で、人間の足や車に気をつけながら、一気に駆け抜けていきます。
　危険はありますが、整備されて障害物の少ない道はやはり走りやすいようです。ぐんぐんゴールへの距離を縮めていきました。
　今度は、目の前に急に人が立ちはだかってぶつかりそうになります。
　あっぶない！
　でも、なんとか転がりながらも体制を整えました。
（大丈夫、私は猫なんですから）
　ふうふう、と乱れた息を整えながら、自分に言い聞かせる七星でした。

　十朱此方も、旧市街の道の脇をとてとて走っています。
　お三夜まつりで人が多いので、なるべく人を避けて、とてとてと。
　道の隅でたむろってる不良少年たちが見えて、立ち止まります。
　困り果て、塀の上を歩こうかと見上げます。
　でも、普段塀の上などを歩いたこともありません。
　躊躇い、あと一歩が出ない此方でしたが、その塀の上をとっとこ走る猫もいました。
　お三夜さまに似た黒猫の、綾辻綾花です。
（わ。向こうに不良がいる……。やっぱり人が多いところは、塀の上に限りますね～）
　とすいすい進んでいくと、大誤算。

　カアーカアー。

　猫をおちょくるのが大好きなカラスが、綾花の行く先で翼をバッサバサして待ち構えています。
　にた～っと笑って、
「お前、もしかしてお三夜さまカー？」
　容姿が似ているのが徒となったのでしょうか、狙われてしまいました。
「ち、違います」
「俺の名はピクルス。お三夜さま～、遊ぼうぜ～」
「お三夜さまではありませんから……」
「どうかな～、ちょっと試してみようカー」
　ぶわっと翼を広げて飛ぶと、綾花に襲い掛かります。
「きゃっ！」
　綾花はすかさず塀から飛び降りました。
「きゃ？」
　道で考え込んでいた此方は、突然隣に現れた黒猫にびっくり。
「すみません、カラスに襲われて……」
「あら、上は大変ですね。でも、下もちょっとまずい状況ですわ……」
　道の向こうからは、なんと不良の１人が近づいてきました。
「なんだあ？　魚くわえた猫が二匹もいるぜ～」
「ど、どうしましょう～？」
　このレース、出場するからには勝利を狙う２人です。
　なんとか切り抜けたい……でも、不良は猫に興味津々です。
「なんだなんだあ？　こいつら、俺様に撫でてほしいのか～？」
　未成年なのに煙草を吸いながら、二匹に手をのばしてきました。
　そのときです。
　しゃあーっ！
　此方は力いっぱい威嚇します。
「おう、なんだよ、怒んなよ～」
　不良少年は思わず尻餅をついて、仲間に笑われています。
　今のうちに、と此方と綾花は猛ダッシュ。
　少年グループの危険地帯を駆け抜けていきました。
　そしてその先で出くわす交差点では、ききーっと急ブレーキ。
　車は危険です。２人は信号が青になってから渡る慎重さも兼ね備えていました。

　七星、此方、綾花は、一歩リードというところでしょうか。

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【お三夜】にゃんと奉納猫レース！

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