【お三夜】にゃんと奉納猫レース！｜リアクション

【お三夜】にゃんと奉納猫レース！

　さて、今この辺りにいる漁師は犬吉だけではありません。
　同じ漁師におねだりする作戦だとしても、猫好きかどうかをよく見極めてから接触を図る、というのが、三宅葉月の策でした。
　よく見ていると、最も近くにいる犬吉はポケットから犬のストラップがぶらさがっているではないですか。なるほどなるほど、これはきっと犬好きなのでしょう。刀が苦戦するわけです。
　葉月はてくてく歩いて、スマホをいじってニタニタしながら休憩している漁師、猫道猫之助を発見しました。壁にぴょんと乗ってのぞいてみると、猫の動画を見ているではないですか。
　にやり。
　葉月は猫之助の前をてくてくと歩いて、ピタッと止まると、猫之助の目をしっかりと見て、にゃ～っと一鳴き。
「おいおい、なんだいクロちゃん。わかった、撫でてほしいんだな～？」
（いや、違います……けど、そのあとで魚をくれるなら……）
「可愛いなあ～」
　ナデナデナデナデ……。
　その後なんとか魚はもらえたものの、葉月は葉月で苦戦するのでした。

　黒猫ばかりではありません。
　雪のような真っ白な猫が、漁港にやってきました。
　トテトテと慣れない様子で歩いてくると、ふう、と一息ついて止まりました。
　しばしの沈黙のあと、まるでコントの一場面のように両手を広げてずっこけるような仕草をして、
「え？　なんでですか？」
　と呟いたのは、寝子島のセイレーンこと白浜渚です。
（これはまた神魂がらみでしょうね。私もさすがに慣れてきましたわ）
　なんて自分に言い聞かせてレースに参加していましたが、やっぱりおかしいと気づいたようです。
「なんで猫になっちゃうんですかぁ～～！」
　ドテッ。
　運動神経があまりよいとは言えない渚は、猫の体も持て余しているようでした。
　ふらふらよろよろしているうちに、猫好きの猫之助は仕事に集中。どこかに行ってしまい、近くにいるのは犬吉です。
「白猫も可愛いな～」
　とは言ってくれるものの、しょせんは犬好き。もうこれ以上猫に魚をあげるつもりはないようです。
　にゃ～っ。
　ゆっくり近づいて、足にすりすりしたり、鳴いておねだりしてみましたが、犬吉は仕事に戻ってしまいました。
　しかし、そこであきらめる渚ではありません。
　トテトテと歩き回って、
（やっぱり、ありましたわ）
　落ちている魚を見事に発見、あむっとくわえて神社に向かいました。

　犬吉もいなくなって、この辺りは静かになってしまいました。
　でも、漁港にいるのは漁師だけでありません。釣り人もいるのです。
　毎日のように猫に出くわす漁師よりも、むしろ釣り人の方が猫に興味を持つかもしれません。
　一人の釣り人の元に、小柄な猫が一匹近づいていきます。
　茶色と白色の猫はよく見かけますが、その茶色が橙色になったような、橙白猫とでも申しましょうか、ふわふわの橙白の毛がきもちよさそうに揺れています。
　少し短い尻尾も橙と、先っぽは白というツートーン。手足も先が白い、いわゆる靴下猫になってしまったのは、　猫が大好きな恵御納夏朝。
「みゃあ～」
　しつこくして嫌がられたり、万一釣りの邪魔をしてしまっては大変ですから、一度鳴いたらそれっきり。
　近づきすぎずにじっと我慢です。
　後ろ足だけをたたんで、じっと行儀よく待っていると、チャンス到来。
　釣り人の魚住魚太郎がくるっと振り向いて、目が合いました。
　魚太郎はバケツの中をのぞきこんで、うーんと唸っています。はっきり言って、この日の釣果はいまいちで、猫にくれてやる余裕はありません。
　もう一度チラッと猫の方を見てみると、じっと静かに待っています。
　その姿はいじらしく……根負け。魚を取り出すと、見せてやります。
「ほしいのか？」
「ぐるるみゃ～」
　夏朝は静かに近づいて、かわいくお礼を言って、体をすりすり。魚太郎に預けます。
　魚太郎は、なでなで。
「しょうがないな」
　魚をゆっくり夏朝にくれました。

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