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猫鳴館、自治会長選任戦・秋 ～みんな熊になれ！
●結果発表、新たな自治会長は
朝７時。
雑草生い茂る落神神社の境内は、戦いを終えた兵（つわもの）たちで溢れていた。
疲れ果てて倒れ込んでいる者、余裕な顔でお喋りする者、屋根に上ろうとして怒られている者、それぞれだ。
「静粛に！」
海原 茂とゴール担当の黒子の審判たちが、神社の壁面に白い模造紙を張り出してゆく。
そこには、今回の結果が書かれていた。
【得点】
紫：２６点
緑：２６点
桃：３４点
青：１３点
【ゴールした者】
紫チーム：解理、マウル
緑チーム：荒太郎、美野梨、蓮
桃チーム：明里、トモエ、竜司
青チーム：サキリ
「――というわけで！」
迷子になっていたかと思われた士が、ぎりぎり結果発表に間にあった。
「新たな自治会長は、桃チーム――橘 明里に決定だ！」
おおお、というどよめきと拍手。
「あたしが……自治会長？」
茫然とする明里を、信彦と竜司が担ぎ上げる。
「おめでとうあかりん！」
「橘、幼女な自治会長就任を俺は歓迎する！」
トモエは明里を取り囲む寮生たちの輪の中で、何度も跳びあがって祝福の拍手をしている。
「よかったね明里ちゃん」
「ありがとう。みんなのおかげなのよ。元気に自治会長さん、ガンバルのよ！」
「おめでとうございます」
綾花は明里に声を掛け、それから士を振り返った。
「士さん、お疲れさまでした」
その姿を遠巻きに見ながら、二度目の出馬であった骨削 瓢は、ちぇ、と何度も舌打ちする。
「畜生、また負けちまったよぃ。それにつけてもあの手紙！ あっしを当てたのは郡はんだったんだね。あれがなかったらと思うと悔しいねぃ」
「骨削ィ……」
下剤を盛られた兵藤 雅也が、背後から瓢のこめかみをぐりぐりする。
「俺も負けたのは超悔しいけどよ、結果は結果として受け入れようや。もしかすると、綺麗な手も汚い手も平気で使うお前の価値は、自治会長じゃないところで発揮されるってことかもなぁ」
「そういうもんかねぇ」
「それに……あいつ、どう見ても抜けてるから、支えてやる奴が必要だろ？」
雅也は横目で明里を見遣った。
「そうですね」
といつの間にか横に来ていた森 蓮が微笑む。
「推薦していただいた手前、期待に応えられず私も残念ですが、明里さんも素晴らしい方だと思います。彼女に天然なところがあるのは否めないですから、兵藤先輩のおっしゃるとおりみんなで支えてゆくことで、よりよい猫鳴館となることでしょう」
わーっしょい、わーっしょい、と明里の身体が軽々と宙を舞っている。
「なんだかあたし、ほんとうに天使になっちゃった気分なの！」
これが、猫鳴館に【天使な自治会長】が誕生した瞬間だった。
◇
「さて。正式な手続きは猫鳴館に帰ってから改めてするとして」
ごほんと咳払いして、士が場を静める。
「こんな早朝に落神神社をゴールにしたのはほかでもない。夕べ、大風が吹いたろう？」
話の流れが見えず、みんなは顔を見合わせる。
「実りの秋。大風が吹いた翌朝といえば……」
思わせぶりに士が山の方を見遣れば、「木の実が沢山落ちます」と山暮らしの切奈。
「そういえば、この先に大きな栗の木がありますね～」
士は切奈の言葉ににやりと笑った。
「というわけだ。みんな、自治会長も決まったところで気合入れて栗拾いするぞ！ 帰ったら栗パーティだ！」
みんなは大いに栗を拾った。
栗の木には当たり年と外れ年があるが、今年は当たり年であったらしく、大きくてつやつやとした栗の実を沢山拾うことができた。
栗拾いの最中、すれ違いだった曖浜家の叔父と甥も無事出会えた。
「瑠樹……家出るの早すぎだろ」
「あれぇ、そうだった？」
「……って、俺が言えた事じゃねぇか」
早朝トレーニングが趣味の鴻は瑠樹の頭をくしゃくしゃ撫でる。
「腹減ったろ。折角だから朝食食べてけ、って寮生の奴らに言われたから、食ってから帰ろうぜ。お前の父さんには俺からメール入れといてやらあ」
「やったあ！」
◇
こうしてみんながほくほく顔で山を下りていたころ。
土曜の早朝で閑散とした新聞部の部室に響く、キーボードを叩く音。
『こうして、猫鳴館の新自治会長は、橘明里氏に決定した。下馬評では骨削氏が一番人気かと思われたが、橘氏率いる桃チームは、チームワークと知略をもって、並み居る強豪を抑えたのだ。不思議な魅力をもつ橘氏の今後の活躍に期待する』
――八神 修は、パソコンのキーを打つ手を止め、自らの原稿を読みなおした。
選任戦後、修は大急ぎで新聞部の部室に戻って、この原稿を書いていた。
ふう、と肩の力を抜いて、珈琲をひと口含む。
人差し指でぽん、とキーを叩くと、自治会長になった明里の写真が画面に呼び出された。
よく撮れている。就任直後の、よろこびに溢れた表情だ。
修はなにかデジャヴのようなものを感じた。
「そういえば、邪衣が自治会長になったときも、こうやって記事を書いたっけな……」
あれから半年たったというわけか……。そう思うとなにやら感慨深かった。
それから修は、選挙に関する堅い記事のほかに、「熊との死闘！」やら「真の目的は栗拾い！？」やら「拾い食いダメ、ぜったい！」といったゴシップ記事をおもしろおかしく書いた。
そして――彼は、前回同様、記事の最後をこう締めくくった。
――『猫鳴館の歴史がまた１ページ』――
朝７時。
雑草生い茂る落神神社の境内は、戦いを終えた兵（つわもの）たちで溢れていた。
疲れ果てて倒れ込んでいる者、余裕な顔でお喋りする者、屋根に上ろうとして怒られている者、それぞれだ。
「静粛に！」
海原 茂とゴール担当の黒子の審判たちが、神社の壁面に白い模造紙を張り出してゆく。
そこには、今回の結果が書かれていた。
【得点】
紫：２６点
緑：２６点
桃：３４点
青：１３点
【ゴールした者】
紫チーム：解理、マウル
緑チーム：荒太郎、美野梨、蓮
桃チーム：明里、トモエ、竜司
青チーム：サキリ
「――というわけで！」
迷子になっていたかと思われた士が、ぎりぎり結果発表に間にあった。
おおお、というどよめきと拍手。
「あたしが……自治会長？」
茫然とする明里を、信彦と竜司が担ぎ上げる。
「おめでとうあかりん！」
「橘、幼女な自治会長就任を俺は歓迎する！」
トモエは明里を取り囲む寮生たちの輪の中で、何度も跳びあがって祝福の拍手をしている。
「よかったね明里ちゃん」
「ありがとう。みんなのおかげなのよ。元気に自治会長さん、ガンバルのよ！」
「おめでとうございます」
綾花は明里に声を掛け、それから士を振り返った。
「士さん、お疲れさまでした」
その姿を遠巻きに見ながら、二度目の出馬であった骨削 瓢は、ちぇ、と何度も舌打ちする。
「畜生、また負けちまったよぃ。それにつけてもあの手紙！ あっしを当てたのは郡はんだったんだね。あれがなかったらと思うと悔しいねぃ」
「骨削ィ……」
下剤を盛られた兵藤 雅也が、背後から瓢のこめかみをぐりぐりする。
「俺も負けたのは超悔しいけどよ、結果は結果として受け入れようや。もしかすると、綺麗な手も汚い手も平気で使うお前の価値は、自治会長じゃないところで発揮されるってことかもなぁ」
「そういうもんかねぇ」
「それに……あいつ、どう見ても抜けてるから、支えてやる奴が必要だろ？」
雅也は横目で明里を見遣った。
「そうですね」
といつの間にか横に来ていた森 蓮が微笑む。
「推薦していただいた手前、期待に応えられず私も残念ですが、明里さんも素晴らしい方だと思います。彼女に天然なところがあるのは否めないですから、兵藤先輩のおっしゃるとおりみんなで支えてゆくことで、よりよい猫鳴館となることでしょう」
わーっしょい、わーっしょい、と明里の身体が軽々と宙を舞っている。
「なんだかあたし、ほんとうに天使になっちゃった気分なの！」
これが、猫鳴館に【天使な自治会長】が誕生した瞬間だった。
◇
「さて。正式な手続きは猫鳴館に帰ってから改めてするとして」
ごほんと咳払いして、士が場を静める。
「こんな早朝に落神神社をゴールにしたのはほかでもない。夕べ、大風が吹いたろう？」
話の流れが見えず、みんなは顔を見合わせる。
「実りの秋。大風が吹いた翌朝といえば……」
思わせぶりに士が山の方を見遣れば、「木の実が沢山落ちます」と山暮らしの切奈。
「そういえば、この先に大きな栗の木がありますね～」
士は切奈の言葉ににやりと笑った。
「というわけだ。みんな、自治会長も決まったところで気合入れて栗拾いするぞ！ 帰ったら栗パーティだ！」
みんなは大いに栗を拾った。
栗の木には当たり年と外れ年があるが、今年は当たり年であったらしく、大きくてつやつやとした栗の実を沢山拾うことができた。
栗拾いの最中、すれ違いだった曖浜家の叔父と甥も無事出会えた。
「瑠樹……家出るの早すぎだろ」
「あれぇ、そうだった？」
「……って、俺が言えた事じゃねぇか」
早朝トレーニングが趣味の鴻は瑠樹の頭をくしゃくしゃ撫でる。
「腹減ったろ。折角だから朝食食べてけ、って寮生の奴らに言われたから、食ってから帰ろうぜ。お前の父さんには俺からメール入れといてやらあ」
「やったあ！」
◇
こうしてみんながほくほく顔で山を下りていたころ。
土曜の早朝で閑散とした新聞部の部室に響く、キーボードを叩く音。
『こうして、猫鳴館の新自治会長は、橘明里氏に決定した。下馬評では骨削氏が一番人気かと思われたが、橘氏率いる桃チームは、チームワークと知略をもって、並み居る強豪を抑えたのだ。不思議な魅力をもつ橘氏の今後の活躍に期待する』
――八神 修は、パソコンのキーを打つ手を止め、自らの原稿を読みなおした。
選任戦後、修は大急ぎで新聞部の部室に戻って、この原稿を書いていた。
ふう、と肩の力を抜いて、珈琲をひと口含む。
人差し指でぽん、とキーを叩くと、自治会長になった明里の写真が画面に呼び出された。
よく撮れている。就任直後の、よろこびに溢れた表情だ。
修はなにかデジャヴのようなものを感じた。
「そういえば、邪衣が自治会長になったときも、こうやって記事を書いたっけな……」
あれから半年たったというわけか……。そう思うとなにやら感慨深かった。
それから修は、選挙に関する堅い記事のほかに、「熊との死闘！」やら「真の目的は栗拾い！？」やら「拾い食いダメ、ぜったい！」といったゴシップ記事をおもしろおかしく書いた。
そして――彼は、前回同様、記事の最後をこう締めくくった。
――『猫鳴館の歴史がまた１ページ』――
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2015年10月05日
- 参加申し込みの期限
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- 2015年10月12日 11時00分
- アクション投稿の期限
-
- 2015年10月12日 11時00分
