猫鳴館、自治会長選任戦・秋　～みんな熊になれ！｜リアクション

猫鳴館、自治会長選任戦・秋　～みんな熊になれ！

●最後の戦い

　残り時間は３０分を切った。
　最初から邪衣士をメインターゲットにしていた後木真央は、夏朝と遭遇した際一時見失ったノシノシの熊をふたたび視界にとらえている。
　真央は確信していた。
（あの姿勢、横幅の厚み、胸と腹の出具合、身長……どれをとっても士ちゃんに間違いないのだ）
　そして何より。
　ノシノシの熊の歩みは自信たっぷりだった。自信たっぷり、神社から離れて行っていた。
　ほとんどの者がゴールしたか討ち取られたかして、あたりには他に人気がない。
　真央は思い切って駆け出した。みるみる近づく熊の背中に飛びかかって抱きつく。
「士ちゃん！」
　なのだ、は咄嗟に口の中で飲み込んだが、士にも相手が真央だとわかったらしい。
「遅いぞ。ずっとつけて来てたくせに」
「気づいてたのだ？　……じゃなくて、のか？」
　答える代りに、士はぐいと熊皮を押し付ける。
「急げよ。時間までにゴールしなければ意味ないぞ」
　真央はそれを受け取ると「うん！」と元気よく肯いた。
「ありがとなのだ！」
　こうして、前自治会長の高得点ハチマキは、一途に士を追いかけてきた真央の手に渡った。

《紫：後木真央、邪衣士の白ハチマキ（１０点）ゲット！》

　真央は走った。
　せっかく高得点のハチマキを手に入れたのだから、士の言う通りゴールしなくては意味がない。
　士を追っているうちに、元の道からはずいぶん外れてしまっていたようだ。
　走って走って、ようやく鳥居が見えてきた。
　間にあうだろうか。
　神社の鳥居の前には紫ハチマキの仲間たちがいて、走ってくる真央に声援を送っている。
「あと５分！」
「走れば余裕だよぃ！」
「がんばれー！」
　なんて嬉しいことだろう。疲れが吹っ飛び、みるみる力が湧いてくる。
　だがそのとき真央は気づいた。
　鳥居の前に、青ハチマキの熊が仁王立ちで待ち構えている。
　南雲銀丸だ。
　銀丸は真央が自分のハチマキのほかに、白ハチマキを二本持っているのを見た。
　まさに、待ち望んでいた大物だった。
　銀丸は真央を睨みつけ、＜目を凝らすと透けて見える＞を発動させる。
（なるほどな）
　一方の真央はどうか。
　真央もまた咄嗟に観察眼を働かせた。
　青チームが小柄な雅也、細身のサキリ、筋肉質な銀丸の三人で構成されていることは知っている。
　体格の違いで見破りやすいのが青チームなのだ。となれば目の前の男は――。

「せーの！」
　銀丸と真央は同時に叫んだ。

「後木真央！」
「南雲銀丸！」

　有利なろっこんを持つ銀丸に対し、真央の大健闘による相打ちだった。
　熊皮を脱いだ銀丸と真央は「悔しい！」と互いに正直に口にして、その後ニカッと笑って握手しあう。
「残念だがしゃーない。喧嘩の後は仲直りってな。お前、やるじゃん」
「銀ちゃんセンパイこそなのだ！」

　ところでこの決闘を、木陰から見ていた熊がいた。
（あっぶねー……先に出てたら討たれてたな）
　冴木竜司である。
　竜司は、友情をはぐくみあう銀丸と真央の横をそそくさと小走りで駆け抜けた。
　ゴールしたのは制限時間ぎりぎり。彼が最後の熊であった。

【ゴール】桃・冴木竜司：桃ハチマキ（３点）＋紫ハチマキ（３点）＋白ハチマキ（５点）＝１１点

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