【生徒会総会】クラブ対抗！部費争奪戦ｂｙコメディエアー｜リアクション

【生徒会総会】クラブ対抗！部費争奪戦ｂｙコメディエアー

76.

「おしかったな、雨崎」修が笑いかける。「もうすこしで、水泳部の完封だった」
　それを聞いて、周囲は首をかしげる。
　水泳部は、あのメールシュトロームが切り札だったはず。
　あれを打った以上は、他に手はなかった……。
「買いかぶりですよ」
「だから、状況がもう少し早ければ、打てたんだろう？　……『もう一発』を、さ」

　コメディエアーが温まることにより、笑いの仕組みが高度化した。
　こみいった仕掛けまで許容されるようになり、それにより射撃部や探検部が恩恵を受けた。
　だが、もし『ある程度まで逃走可能』というルールが、もっと早く適用されていれば。
　
　メールシュトローム発動後の水泳部は、逃れつつも敗退していた。
　だが、あれは手数を全て失っての、犬死では決してなかったのだ。
　彼らは狙っていた。

　『もう一発』を。　

　――そうか。
　コメディエアーが残留する、あの空中庭園。
　濃密に漉しとられたエアーは、ほとんど液体と言っていいほどの質感があった。
　液体。
　さらに、夕立ちの可能性もある。
　もし、あの場に水泳部の三人が集結していたら。
　いやもしも、一人でも水泳部が残っていたら……。
　
　あの場所に全員が集結した瞬間、メールシュトロームが発動。
　例え三分の一の威力であっても、全員の風船を割ることも可能であったはずだ。

　完全試合、水泳部の一人勝ちという瞬間まで、実はフェイズは進んでいたのだ。

「初手はフェィク」
　修は笑う。

　柔和さ、やさしさ。そして内に秘めた純粋さ。勘助はそれゆえ、最後にバトンを託された。
　彼ひとりでも、最終決戦の場に入れば、勝利が確定する……。
　だからこそ、射撃部は彼を全力で防がなければならなかった。
　風船一つ犠牲にしてすんだのは、僥倖。
　相手の風船を割ったのは、攻め過ぎ。

　冷静に見えた修、実は薄氷の勝利であったことを、誰よりも心得ていた。
　互いに万全の策で臨んだ、二人の策士は、互いの健闘をたたえ合った。

　探検部特製レシピの香料を使った焼き肉を頬張りつつ、北原みゆきは考えていた。
　部費争奪戦が終わってから、いろいろな部活から話しかけられた。
　罠を使って、サバイバル術をレクチャしてほしい、とか……。
　人形を扱うテクニックを、他の場所で生かしてほしい、とか……。
　トリッキーな戦術が、他チームからも高く評価されていた。
　「お疲れさん、いい戦いだったぜ」
　豪が、みゆきと士をねぎらった。
　
　部費をめぐる凄惨な争いとはならず、むしろあまり縁のない部活同士の交流と。
　善戦を見せたクラブは、敗北しても助成金が出るという話もある。

　ただの部費の取り合いにならず、さわやかなムードで進行したのは、運営、ジャッジ、それから参加者の間で共有されたものがあったからだろう。

　とりあえず、探検部は昨年よりちょっと上乗せ。
　それで、満足である。

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