ぶっとべ！　いきなり旅でしょう？！｜リアクション

ぶっとべ！　いきなり旅でしょう？！

＞箱根

『あやのファインダー』

（いい匂い）
　木漏れ日の中、若草の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ青山絢は思いっきり伸びをした。そしてリフレッシュしたところで何処をファインダーに収めようか、と考える。
「そういえば、私……、デジカメ片手に街を歩いていたら、テレビ局の撮影クルーに捕まったのよね」
　そしていきなり旅行へ行けとか言われた訳である。お断りスキルの低い絢はこれを断り切れず、結局言われるまま現在に至る。しかも一瞬でここへ来てしまったし、傍らには荷物も用意されている。
　周りにはどうみても撮影スタッフらしき人々（でも猫耳とか見えている）。絢はふぅ、と１つため息をついた。
（正直なことを言えば、心の準備が）
　僅かながら不安な表情を見せる絢。そんな彼女に、スタッフの１人が提案する。
「なんなら、温泉に入っているトコでもいいですよ」
「女の子の温泉シーンも【絶景】って……、冗談じゃないわよっ」
　さすがにそれはと、思わずノリ突っ込みをしてしまう絢。そして、別のスタッフにとび蹴りを喰らう提案者。内心でほっ、とした絢であるが、根本的なことは解決しておらず、額を押さえた。
（まず、深呼吸。次に、スマホで検索ね）
　絢は懐からスマートフォンを取り出すと箱根とその周辺の絶景ポイントについて検索してみるのだった。

（うん、いい感じな場所がいくつかあるわね。そこを巡ってみようかしら）
　気を取り直して、絢は早速検索で見つけたポイントへと向かう。その行く先は芦ノ湖湖畔である。
「箱根の絶景スポットといえば、定番はやっぱりここよね」
　絢は緊張がほぐれてきたのか、幾分か余裕のある表情を浮かべていた。見渡せば外輪山と富士山、そして湖が、雄大な景色を見せてくれている。天気は快晴で気温もそこそこ暖かい。ふわり、と春の香りが流れ、絢は僅かに瞳を細める。
「この景色は、やはり撮りたくなるわよね」
　というわけでスタッフさんにデジカメを預け、数枚とってもらった。自分でも風景を少々撮り、いい出来だったのでちょっと口元が綻んだ。

（次は、ここね）
　絢が次に向かったのは、神秘的な雰囲気漂う千条の滝。なんでも、パワースポットにもなっているらしい。蛇骨川の上流にあるこの滝は、幾筋にも分かれているところから『千条（ちすじ）』と呼ばれるようになったとか。
　岩肌に蒸した苔の深い緑、色濃い水の匂い、水の音……。それだけでもどこか癒される気分になる。
（パワースポットになっているだけあって、風情があるわね）
　そう思っているうちに、自然とデジカメのシャッターを押していた。無心でシャッターを押す姿を、スタッフはカメラに収める。
　そして、どんな写真が取れたか見てみると、見ているだけでせせらぎや雰囲気が漂ってきそうな、実にいい１枚が取れていた。
「……ふふっ♪」
　何故だろう、絢はいいことが起こりそうな気がして、小さく笑っていた。

『あやのファインダー』（終）

絢「あ、バッテリーの残量がピンチだわ……」
スタッフ「充電します？」