ぶっとべ！　いきなり旅でしょう？！｜リアクション

ぶっとべ！　いきなり旅でしょう？！

　＊　＊　＊　＊

　しばらくして、目的地に到着した２人は早速中へ入っていた。さっそくいい匂いに釣られる陽毬は、「ところで、ミスターっ！」と流を呼び止める。
「なんだ？」
「旅のお供には絶対に美味しいものが必要だと思うの。メインじゃなくても！　片手に小道具みたいなノリで！」
「お、おぅ？」
　勢いよく主張する陽毬に、若干気圧されながら流が頷く。陽毬は右手をぐっ、と握り締め南国情緒あふれる花々の前で力説する。
「だって沖縄だよ？　美味しそうなものいっぱいあるよー。サーターアンダギー！　ソーキそば！
本場のゴーヤーチャンプルぅぅぅ！！」
　きゃるんっ、とした瞳の中に沖縄の美味しい料理が浮かぶような陽毬の眼差し。流は圧倒され、言葉が出ない！　そこを好機と睨んだ陽毬は、どん、と言い放った！
「本番中に腹が鳴るというハプニングを起こしたくなければ、食べ物を食べる時間を下さい！」
「え？　もうカメラ回ってるぞ？」
　ここで急に平静を取り戻す流。それに陽毬は「写真撮影のとき！」と突っ込む。
　流は「ふむ……」とうなりながらパンフレットを開き、一角を示す。
「ここにはランチビュッフェや沖縄そば屋もあるから、撮影終わった後に打ち上げって形で食べる分にゃきっと大丈夫だろ。むしろ衣装を着て食べてる様子を記念撮影ってのもいいんじゃね？」
「それは名案だねぇ」
　流の提案に顔を綻ばせる陽毬。とりあえず２人は民族衣装で記念撮影が出来る場所へと移動することに。ただその途中で「藍染体験も出来るんだなぁ」と流が興味を示した隙に陽毬がフルーツ園のジュースに引かれ、あわてて引き戻したりもしていた。

　なにはともあれ、琉装を着て撮影することに。さすがにそれを纏って食べ物を食べることは出来なかったが、小道具として持つことは許可された。
「うぅ、食べるのは着替えてから、着替えてから……」
　マンゴーを片手に美しい衣装を纏う陽毬。ぱっ、とみた感じでは愛らしさが倍増で流もおもわずどきっ、としてしまう程である。一方流は流で三司官の衣装を纏っていた。渋い色合いの生地に引き立てられ、凛々しくみえた流は、なかなか様になっている。
　だが、目は先ほどからいつもと違った雰囲気がする陽毬に釘付けだった。陽毬は普段よりも愛らしいお日様のような笑顔を零し、少し恥ずかしそうに頬をうっすらと赤くしている。実のところ、陽気に照らされてちょっと火照っただけなのだが、流はそれを知らない。
（こうして着こなして大人しくしてれば可愛いのに、行動が残念すぎるのが玉に瑕か？）
　まあ、それも愛嬌ではあるんだが……と思わず苦笑する流。
「それじゃ、いきますよー」
　スタッフさんに声をかけられ、２人でにっこり笑う。そして出来上がった写真は、２人とも実によい笑顔で映っていた。
「やったーっ！　みっしょんこんぷりーと！」
「おつかれさん」
　陽毬と流はぱんっ、とハイタッチし、わらいあった。そんな２人に、スタッフもほっこりした気持ちになっていた。

『【食い友】コンビ体験記』（終）