寮生の日常　～星～｜リアクション

寮生の日常　～星～

　パーティー終了後。
「……で、これ。どうするよ」
　紗姫がヒールの先で、巨大なたんこぶを作って静かにしている謡を軽く蹴る。
「脈は正常、呼吸も安定していますぅ。頭を打ってるから下手に動かさないほうが安全かもしれません～」
　保険委員の牡丹が言うならそうなのだろう。紗姫はぶっちゃけめんどくさ……じゃなかった、医療的放置が最善と判断。喉が渇いたので桐野正也の元に向かう。
「まだ作ってもらえる？　あたしと牡丹の分、お願いしたいんだけど」
「いらっしゃい。まだこっちは閉店してねえよ。何にする？　アルコール抜きでも色々作れるぜ」
　バーテン姿の正也。細いストライプのベストがよく似合っている。制服とは違うピンタックウィングのシャツも着なれているようだ。
「じゃ、あたしは柑橘系。牡丹はどうする？」
「私は……詳しくないのでおすすめをお願いしますぅ」
　一緒にいた創は先に帰らせていた。桜花寮の門限は21時、ナイトパーティーの件は宿直スタッフも知ってはいるだろうが、厳しいスタッフに当たると面倒なことになる。紗姫と牡丹は同室なので、創もあまり心配せずに帰ったようだ。ホスト部も信彦は優華を、部長は先輩を送りにいったため正也しかいない。
　ふたりのリクエストに、正也はわかったと簡潔に答える。オレンジ、レモン、パイナップルのジュースをシェイクし静かにカクテルグラスに注ぐ。
「お待たせしました」
　紗姫のために作ったカクテルはシンデレラ。ドレスと同じ黄色のノンアルコールカクテルである。
「あとーんす。今日は敬語キャラだったじゃん。女子受けまあまあ良かったよ」
　にやりと笑いながらグラスを受け取る紗姫に、そうか？　と正也は静かに返した。パーティーの一角で静かな物腰でカクテルを作る正也はいつもより大人びて見えた。
「お客全員が楽しめるよう影で動くのがバーテンだって聞いたからな……どうぞ、お客様」
「わーい。ありがとうございますぅ！」
　牡丹は正也からパイナップルの飾られたカクテルを受け取る。ラムの抜かれたピニャ・コラーダだ。ココナッツミルクとパイナップルジュースが南国らしい甘さを演出していた。
「おいしいですぅ」
「お疲れ様です。俺にもお願いできますか？」
「かしこまりました」
　ニコニコとカクテルを楽しむ紗姫と牡丹の後ろから礼二もやってきた。先ほどまで来客が残っていないかチェックをしていたようだ。正也は軽く頭を下げてカクテルを作り始める。慣れた手つきでシェイカーを操った。
「レージ、その紙袋どーしたの？」
「ああ。これ、添木さんの弟さんが俺に預けて言ったんです。なんでも、お姉さんの着替えだそうですよ」
「チカ君が？」
「確かに着物は動きにくいしね。牡丹、着替えてくれば？」
　どうして直接言ってくれなかったのだろう。
　少し不思議に思いながらも礼二から紙袋を受け取り、牡丹は素直に更衣室に向かっていった。
「お待たせしました」
「あっは。いただきます～」
　礼二に作られたのはプッシーフット。こっそり歩くと言う意味の卵黄とフルーツジュースのカクテルだった。シャンパングラスを傾けて舌先を濡らす。悪くないのど越しである。
「俺らもそろそろ退散……」
「うぅぅ、チカ君が何を考えてるかわかんないですぅ……！」
　正也の声に牡丹の声が被さった。バニーガール姿の牡丹が涙目で飛び出してくる。紙袋に入っていたのはバニーガールセット一式と、『それ着て写メ送ってね。でないと戌井クンに悪戯するよ』と書かれたメモが入っていた。パーティーの時にかまってもらえなかったのを根に持っているらしい。
「お姉ちゃんを脅迫するなんて～。あうあうあう」
「まあ、パーティーぽくていいんじゃね？　せっかくだから集合写真でシメにしよ」
「そうだな……しかたがないここは俺が撮影しよう、うさぎを中心に並ぶのださあさあさあ」
　うさぎへの愛で、白い人が奇跡の復活を遂げた。
「……いきなし、あんたって」
「あっは」
「俺が言うのもなんだけど……2年て結構アレだよな」
「はいはいはいチーズ」
　うるさい声は無視して牡丹を中心に人を集める。
　カシャ、とシャッター音が響く、飾らない表情が集まった。

このページにイラストを設定する

あとがき

担当マスター：相馬円
ファンレターはマスターページから！

寮の日常シナリオがあったら楽しいと思いました。
簡単な事件があったほうがいいのか、
プレイヤーさんの自由度が思い切り高いほうが良いのか
今でもよくわからないのですが、
今回もとても楽しく書かせていただきました。

機会があればほかの寮も書いてみたいです。
それでは、相馬円でした。

↑ページトップに戻る