色づく季節、新生徒会の日常｜リアクション

色づく季節、新生徒会の日常

●来訪者続々

「五郎八殿～」
　大田原いいながやってきたのは、ちょうど閑話休題、といった雰囲気の時だった。
「もし時間があれば、歌留多同好会の勧誘ビラ、草稿を確認して欲しいのじゃが、大丈夫じゃろうか？」
「いらっしゃい。勧誘ビラ作ったの？」
「うむ、先日の『すたんぷらりー』に参加した際、在学生が結構興味を持ったようでな。これ幸いと、勧誘ビラで呼び込もうと思ったのじゃよ」
「そうなのね。……あ、良かったら入ってお茶して行ってよ。いま、ちょうどガム談会議っていうのしててね」
　校長先生のシトラス・ガムダンの話をね、と五郎八が説明すると、いいなも興味が湧いたらしい。
「……なに？　『しとらすがむたん』？」
　いいなは、ふんむーと唸る。その正体についてはいいなも思うところがあった。
「生徒の間では『しとらす味のがむ』だの『しとらす色のむたんがという際どい水着』だのと色々言われておるらしいが、儂が考えるに、かなり昔にあったはりうっど映画の台詞じゃと思うのじゃ」
「は、はりうっど？」
　水着のムタンガもすごいが、ハリウッドも突拍子がない。思わず五郎八は聞き返す。
　冗談で言っているのかと思いきや、いいなの表情は真剣そのものである。
「ほれ、ちべっと密教っぽい映画で主人公が言うておったろ？　『あーいうぉんとなーいふ、ぷりーづ』とな？　それと同じで、回すとお経を唱えたことになる『まに車』を回しながら言わぬと意味のない言葉なんじゃと思うておるのじゃ」
　いいなは手の平でマニ車を回す真似をする。ちなみに、マニ車とは、表面に経文が書かれた円筒形の仏具で、回転させた数だけお経を唱えたことになる、というものだ。シトラスガムダンシトラスガムダンシトラスガムダン……と唱えると極楽に行けるとか、そういうのだろうか。

「なんか壮大になってきたわね」と恩は笑った。
「短くする件に話を戻すけど、シトラス・ガムダン以外のいい話を校長に教えてそのお話に……なんて名前がすり替わるだけよねぇ」
　短くはならなそう、と恩はいったが、『他のいい話を校長に教える』も一案として黒板に書き出された。

「っとと、忘れるところであったわ」
　お茶でまったりしていたいいなは、ここに来た当初の目的を思い出した。
「草稿はこれなのじゃ、五郎八殿。活動日程と活動教室を書いておいたのじゃ。後は……冬場はもう少し暖かな教室で活動出来ると良いんじゃがのぅ志波殿？」
　いいなは思わせぶりな視線をちらちらと武道に送る。
「いいよ、申請してくれれば。空いてれば使えるから部員のみんなと相談してみて？」
　と武道は言った。

　さて、ここで生徒会室はまたもや来客を迎える。
　まるで真夏のひまわりみたいな、陽気な金髪、陽気な声。
「失礼するよ！　っと、取り込み中だったかな？」
　八十八旗信彦だ。これにぎくりと反応したのはいいなだった。
「んげ！　ボケ彦」
「おー、いーなっちじゃないか！　こんなところで奇遇だね」
「貴様ここに居るのは何故……」
「何故、って、部屋を借りたいと思って許可を取りに来たんだよ。北校舎二階の理科の特別室か、家庭科室か、会議室。時間は明日のお昼前からなんだけど空いてるかな？」
「んー、理科室と家庭科室は授業があるからダメだけど、会議室なら。利用目的は？」
　聞いたのはエヴァだ。
「コスプレ部のランチミーティングに使いたい……って、あれ、いーなっち？」
　いいなの目つきがみるみる胡乱なものになってゆく。
「儂はそんな話は聞いておらんが？」
　そうだった。いいなもコスプレ部だった。
　信彦はしまった、と思った。
　そう……コスプレ部のランチミーティングは口から出まかせ。信彦には別の崇高な目的があるのだ。
「いやぁ、つい方便を。けれど今度こそ真実を語るよ。全ては――」
「全ては？」
　一同ごくりと次の言葉を待つ。

「全てはレディ達に激レア焼きそばパンを捧げるために！」

　◇　◇　◇

　そのころ。
「ついたよ、ここが寝子高だよ」
　トワが寝子高への道を尋ねたその親切な人は、本当にいい人だった。いくら教えても違う方向に歩いて行ってしまうトワを見かねて寝子高の校門まで車で送り届けてくれたのである。しかしその車が、小学校に向かう楓とすれ違ったことに、トワは気づいていなかった。
「カエデって人に会えるといいね」
「Thanks！　迷わないで帰ってクダサイね！」
「いや……君こそ、ほんと、気を付けてね……」

　親切な人に手を振って、さて、とトワは校門をくぐる。待つという選択肢はトワにはない。
「Surprise！　カエデ、どこデスー？」

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