月が綺麗ですね｜リアクション

月が綺麗ですね

　薔薇園の剪定を終えての一息、緋紅朱赫乃は友人に勧められた恋愛小説に読みふけっていた。
　ところが肝心な続きはどこにもない。　
「I LOVE YOU、を翻訳しないと、駄目なんだ……」
　集中して読んでいただけに、突然の横槍まがいの出来事に落胆の色を隠せない。
　けれど、どんな言葉をかけるかで、きっと結末も変わるのだろう。
　そう思うと緊張もすれば、同時に安堵もした。
　望まない結末はきっと訪れないのだ。
　赫乃はめをつむり、茨の園を思い浮かべる。
(『麗しき赤薔薇よ、どうか私に摘み取られて欲しい』かな？)
　少しキザったらしいけれど、きっとこれくらいの方が薔薇の花は嬉しいだろうと思う。
　『この私の悲しみという棘を厭わぬなら』なんて、じれったいお返事が返ってくるとしたら、それもきっと悪くはない。
　赫乃は想像をふくらませながら、目を開ける。
　と、すでにそのページには『I LOVE YOU』の文字はなく、続きの文字が浮かび上がっていた。