一方通行の道路沿いに年季の入った家々が並ぶ、旧市街の裏通り。
比較的、土地の広い家が多いという他はなんの変哲もない道だから、普段はただ通り過ごされてしまうだけの場所だ。
けれど秋のほんの僅かな時期だけ、この道を通る人はふと周囲を見回すことになる。
風に乗って漂う甘くノスタルジックな香が、一体何処から来るのかと。
そんな通りの設楽と表札のでた1軒の家、低い生け垣の向こうから声がする。
よかったら寄っていらっしゃいな。
金木犀の花期は短いの。次の雨が降ったら、散ってしまう。
今のうちにひと握り、ふた握り、うちの金木犀の花を摘んでおゆきなさいな。
金木犀の香を留める方法も教えましょう。
上手に保存すれば50年も保つモイストポプリ。
それともジャムやシロップにして。
あなたたちにはまだちょっと早いだろうけれど、お酒に漬けこむことも出来るのよ。
可愛くて捨てられずにたまってしまった瓶もたくさんあるから、良かったら作っていって。
それとも金木犀をいれたクレープを焼いてあげましょうか。
小柄な老婦人はそう呼びかけるけれど。
「おいでおいでばばあが出たー!」
「逃げろー」
小学生たちは口々に言って、笑いながら走っていってしまう。
子どもたちの背中を見送ると、老婦人は仕方がないわねと微笑し、庭の金木犀を振り返った。
見事に咲いているけれど、木が庭の奥にあるために道路からはかなり覗き込まないと見られない。
「今年のあなたの花を楽しむのは、私だけかも知れないわねぇ」
もう諦めようか、それとももう少し通りかかる人に声を掛けてみようか。
迷いながら、老婦人は小さな花をいっぱいにつけた金木犀を見るのだった。
ふと金木犀の香りに気付く秋。
家の庭にあったころは、香りが近すぎてくらくらするし、落ちた花の掃除が大変だし……でしたけれど、今はとても懐かしく感じます。
秋のあるひととき、設楽さんちで金木犀の花を楽しんで戴きたい、というのがこのシナリオです。
適当な時間帯、ふらっと家の前を通りかかると設楽が声を掛けます。
それに誘われて訪れてもいいですし、このシナリオにおきましては設楽と既に知り合い、という設定にしていただいても構いません。
目で楽しんでも、何かを作って楽しんでも、金木犀を焼き込んだクレープやお茶を楽しんでもいいですし、花を摘んでお持ち帰りしていただいても。もちろん作ったポプリやシロップなどもお持ち帰りできます。
お好きに過ごしていただいて構いませんが、あれもこれもとなると1つ1つの分量が少なくなってしまうので、メイン行動1つとサブ行動1つ、とかぐらいに絞るほうがオススメです。
甘い香りに招かれて、ぜひ設楽さんちの庭にお越し下さいませ。