「あら、入学式のスピーチで目立ってた子……野々さんだったかしら」
「あ! 理事長先生!」
放課後にシーサイドタウンをふらついていた
野々 ののこは、ショッピング中の
桜栄 あずさ理事長とばったり出会った。理事長は手入れの行き届いた長い髪を緩やかにかき上げ、微笑む。
「学校生活はどう? 青春してる~?」
「楽しいよ! みんなとおしゃべりしたり、たまに寝ながら授業受けたり、いろんなことしたり!」
「うんうん。面白そうな子はとりあえず入学させてるから、三年間飽きないと思うわよ~」
授業中に寝ているという発言も軽々と流す理事長は、寛大と言うべきか、緩慢と言うべきか。
ふとののこは、視界の隅に映った光景に注目する。
「ん……? 先生、あそこで猫とカラスが睨み合ってるよ!」
「あら本当。最近カラスがやたら多い気がするわ……やぁねぇ。星ヶ丘も、路地裏なんかによくいるもの」
「あっ……」
ののこははっとした。カラスと対峙している猫の毛が、赤く滲んでいるのだ。
「あの子ケガしてる……! わたし、カラス追い払ってきます!」
理事長にぴしっと敬礼のポーズを見せ、ののこは一直線に駆け出した。
それに気付いたカラスは、すぐ様標的をののこへと移す。
「カァーッ」
大きな黒い羽をばさりと広げ、ののこに直進する。瞬時に彼女の視界がカラスの黒色に覆われた。
「わっ!」
「野々さんッ!」
理事長が咄嗟にののこを庇った。ののこの瞳を狙ったカラスのくちばしが、理事長の手首にあったブレスレットと衝突しカチャン! と音を弾かせる。
「理事長先生!」
バサバサと去って行くカラスのくちばしには、キラキラと光を反射するブレスレットが揺れていた。
「大丈夫!?」
「平気よ~……けど、ブレスレット持ってかれちゃったわねぇ」
心配するののこを宥め、留具の角で軽く擦りむいた手首をさする理事長。
「年下のコからもらったやつなんだけど……」
そしてカラスが飛んで行った空をぼんやりと眺める理事長の心境は、読み取れない。だが責任を感じたののこは、落ち込むよりも先に意を決した。
「ごめんね先生……でもわたし、ぜったい取り返してくるよ!」
「えぇ? そんなのいいわよ~何かあったらかえってこっちが面倒になっちゃうから~」
躊躇なく人に向かってきたあのカラスの凶暴性を危惧し、理事長はののこを止めようとしたが。
「みんなと一緒なら、できないことなんてなーい!」
ののこは緊張感無く強気な笑顔を見せると、友人達とつながる携帯電話を片手に走り去ってしまった。
「あっ、ちょ……」
「先生はその猫の手当ておねがいね~っ!」
捨て台詞と共に大きく手を振るののこを呆然と見送った後、理事長は静かに、傷負いの猫を抱き上げる。
そしてブレスレットの外れた片手で猫の柔らかい顎を撫で、心配を露にしながら苦笑した。
「若いってすごいわねぇ……」
「にゃぁー……」
寝子島へようこそ。
今回は少々スリリングなシナリオでございます。
星ヶ丘を中心に、寝子島各地でカラスによる宝石強盗が報告されています。
既に警察も動いていますが、カラスは陰に潜み、見つかれば空を飛ぶため苦戦している様子。
宝石はその不朽の輝きから、人々の願いや思いを集めてきました。
パワーストーン、美を実現するアクセサリー、富や権力の象徴、愛する人への贈り物。
そんな宝石を狙う主犯カラスは、もれいびです。
界隈ではそこそこ力が強いようで、周辺の小物カラスを指揮します。
「宝石を見ると、その宝石にこめられた思いを感知することができる」というろっこんを持っており
人間達の思い出の品や、願掛けをした宝石及び貴金属が狙われています。
宝石でなくとも、カラスは光り物を好むので
身近にあるキラキラ、ピカピカした物も持って行かれてしまうかもしれません。
あなたの周りで被害に遭った人はいますか?
それとも、あなた自身が被害に遭いましたか?
大切な品物を奪われては、フツウの気分で毎日を過ごすことができません。
頑張って取り返しましょう!