太陽がぎらぎら。照りつける日の光に、じりじり、地面に溜まった熱が、蜃気楼めいて景色を揺らしています。
「……暑いのう、アインシュタイン……」
「……そうじゃのう、コペルニクス……」
ここは、九夜山の中腹にひっそりと佇む、秘密のほったて小屋の前。緑に囲まれた山の風景の中、並んだビーチチェアの上でごろりと寝そべっているのは、年季の入ったしわだらけの、二人のお爺さんです。
何やら知的そうな名前でお互いを呼び合う彼らは、Tシャツに短パンのみというラフな格好でだらしなく寝転がり、折からの暑さに、うんうんとうめいたりしておりましたが。
なぜか彼らは、この熱気の中、呼び名に負けじと思ってか、薄汚れた白衣を羽織っていたりするのです。
脱げばいいですのに。
「……それにしても、暑いのう」
「お前、今日それ言うの、百回目くらいじゃぞ。余計に暑くなるからやめてくれんか」
「ワシだって言いたくないわい。ちゅうか、エジソンのヤツはどうしたんじゃ? あやつめ、どこかで、一人で涼んでおるんじゃなかろうな」
「さあのう。またぞろ妙な発明品でも作って……」
と。汗だくになりながら、ごろり、ごろりと寝返りを打つのみの彼らの元へ、
「ついに、完成したぞッ!!」
三人目のお爺さんが現れました。やっぱりこのお爺さんも、だらしない下着姿の上に、白衣を羽織っています。
「……相変わらず暑苦しいのう、エジソンは」
「やれやれ、脳みそがオーバーヒートして、今日の会合の時間も忘れとったんか」
「ええい、やかましい! ワシは今まで、こいつを造っておったんじゃ……この暑さに、イモムシのようにのたくっとるだろう、お前らのためを想ってな」
ずしん、と、重たげな音を響かせながら、エジソンと呼ばれたおじいさんが、担いでいた袋を地面に置きますと。
中から取り出したのは……いくつも飛び出した突起や、やみくもにたくさんくっついているメモリにメーター類に、意味ありげなボタンやらレバーやら。何だかごてごてと、色々な金属部品がくっつきにくっつきまくった、謎の機械でした。何でしょうこれ。
「……なんじゃい、このガラクタは」
「やれやれ、脳みそがオーバーヒートしたか」
「ええい、やかましい! こいつが、今のワシらの、救世主になるんじゃ!」
顔を見合わせる、アインシュタンとコペルニクス。と、名乗っているお爺さんたち。
ぐぐっと胸を張り、エジソンさん(自称)が言いますには、
「聞いて驚け。こいつはな……『電磁冷却砲』じゃ!」
「……でんじれいきゃくほう?」
「やれやれ、脳みそがオーバーヒートして……」
ええい、やかましい! と怒鳴り散らすお爺さんの説明を、よくよく聞いてみますと。
『電磁冷却砲』とは、周囲の広範囲へ干渉し物質の発する電磁波を増幅することで熱放射を加速させ地表やあらゆる物体の持つ熱を根こそぎ宇宙へと放射し周囲一帯を冷却してしまうというええとつまりはその。
かいつまみますと、このうだるような暑さを吹き飛ばし、涼しい空気を呼び込んでくれるという……まさに、酷暑の救世主と呼ぶべき、素晴らしい機械だと言うのです!
「うさんくさいのう……」
「この前の『高速爆轟イモ焼き機』は、爆発してこの小屋ごと消し飛ばされるところじゃったぞ。ワシまだ死にたくない」
「ありゃあ、弘法も筆の誤りちゅうやつで。猿も木から落ちりゃ、河童も川を流れるんじゃ……ともかく! この『電磁冷却砲』で、寝子島の夏を、過ごしやすーい、爽やかーで涼しーい夏に変えてやるんじゃ!」
高らかに叫び、お爺さんは、白衣をばさりと翻すと……ポチッ。機械にくっついている、大きな青いボタンを押しました。
ところで、この三人。
一人は、アインシュタイン。一人はコペルニクス、一人はエジソン。そんな愛称でお互いを呼び合う、何だかんだで仲良しな、ちょっと……いえ、大分変わったお爺さんたち。
その名も、『寝子島少年科学団』!
幼少の頃、立派な科学者になることを誓い合い、そのたゆまぬ情熱と探究心は、やがて互いを偉人の名で呼び合うまでに至り。輝かしい夢と未来は、こうして彼らがお爺さんになっても、少しも衰えることは無かったのです。
……まぁ、つまりは、残念ながら科学者にはなれなかった……ということみたいですけれど。
ともかく、未練がましく白衣を手放さないあたり、初心の心をいつまでも忘れない彼らは、齢ウン十歳を数えてもなお、未だ少年科学団なわけなのでした。
そんな、お爺さんたちの発明した機械。それらは大抵、煙を吹きながらプスンと止まるとか、ネジがぽろぽろとこぼれ落ちるとか、根こそぎ吹き飛んで跡形も残らないとか、いつもは、そんな結果に終わるのが常だったのですけれど。
ぶうううん……という低い音と共に、がたがたと揺れ始めた『電磁冷却砲』。
やがて周囲には、ひんやりとした冷気が漂い始め……。
「「「……寒いのう……」」」
物理の成績は5段階評価で大体2とかだった墨谷幽です。よろしくお願いいたします!
科学者気取りのお爺さんたちが作った機械が、神魂と結びつき、暴走を始めてしまったようです。
●『寝子島少年科学団』とは
少年の折に、将来は絶対に科学者になる! と誓い合った夢を抱いたまま、フツーに歳を取ってしまった、三人のお爺さんたち。
羽織った白衣と、お互いを歴史上の偉大な科学者の名前で呼び合うのは、その夢の名残です。
九夜山の中腹にある無人の小屋を秘密基地と称し、定期的に集まっては、怪しげな実験や発明などを行っています。
それだけなら良かったのですが、彼らの本拠地であるほったて小屋の周辺一帯では、神魂の影響で、彼らが作った適当な機械が、いかにも本物らしい効果を発揮してしまう……という、困った事態が起こっていたりするのです。
今回は、夏の寝子島を涼しくする夢のマシン『電磁冷却砲』が、あたりを涼しくしすぎてしまいました。
●今回のシナリオの概要
夏真っ盛りの寝子島で、寒さと雪を満喫しよう! というシナリオです。
少年科学団の本拠地であるほったて小屋を中心とした、その半径数百メートルほどの周囲には、電磁冷却砲の生み出す冷気が渦巻いており、雪が降り積もっています。
今回は、主に、以下の2つの選択肢があります。
【1】『夏の寝子島で、楽しく雪遊び』
季節はずれに積もった雪のことを知ったあなたは、九夜山へとでかけます。
ふもとに近いあたりでは、流れてきた冷気によって程よく涼しい気温になっており、うっすらと積もった雪により、雪合戦やそり遊びをしたり、用意があれば、スキーやスノーボードなどのウィンタースポーツも楽しめます。
自由に楽しんでみてください。
【2】『異変の調査のため、険しい夏の雪山登山』
異変の原因を探るため、あなたは漂う冷気の出所を目指し、九夜山を登ります。
ふもととは一転して、問題の小屋に近づくにつれて冷気は強まり、中心点では、猛吹雪が吹き荒れています。
小屋は、道なりに山を登れば見つかりますが、険しい雪山を登ったり、凍った池を渡ったり、といった難所を乗り越える必要があります。
電磁冷却砲は、小屋の前に置いてあります。適当にレバーやらボタンやらをがちゃがちゃやるか、最悪でも破壊すれば止まるでしょう。
ちなみに『少年科学団』の面々は、小屋の中に篭って暖を取っています。彼らは、日頃からこういう失敗を想定して、色々と備えをしていたようで、ひとまず命に別状はありません。
アクションには、『行動の目的(どちらのパターンを選ぶか)』『具体的に、どんな行動をするか』『雪にはどの程度慣れているか』等をお書きください。
上記以外の行動を取っても構いませんが、採用されるかどうかはアクション次第になります。
※なお、上記に記した情報(科学団や電磁冷却砲についてなど)はPL情報であり、PCさんはシナリオ開始の時点では、異変の原因を知りません。アクションは、そのような前提で書いていただくと良いかと思います。
●参加条件
特にありません。寝子高生の方でも、社会人の方でもOKです。
●舞台
九夜山の中腹あたりに立っている、少年科学団の秘密基地であるほったて小屋を中心とする、一地域。
●その他、備考や注意点など
※『少年科学団』を除くNPC、及び今回のシナリオには参加していないPCに関するアクションは基本的に採用されませんので、あらかじめご了承ください。
以上になります。
それでは、皆さんのご参加をお待ちしております~!