寝子島高校の一限目の授業が始まる十分前。
八十八旗 信彦は南校舎の階段をのんびりと上がっていた。慌ただしい姿は見せず、微かな笑みを口元に浮かべている。
三階に着くと右手に見える窓へ、それとなく視線を送った。清潔感のある青い空は伸彦が使用しているカラーコンタクトレンズの色とよく似ていた。
引き続き、ゆったりとした状態で教室に向かう。
そこに女子が走ってきて、あっさりと抜かれた。揺れるポニーテールは艶やかに光り、翻るスカートから覗く太腿は健康美に溢れていた。
信彦は絶好の機会と捉え、すかさず声を掛けた。
「そこの素敵なポニテちゃん。俺にはわかる。この出会いは運命だ。まずは放課後デートで親睦を深めようじゃないか」
「誰よ、急に」
立ち止まった女子は胡散臭そうに振り返る。信彦はその容姿に満足そうに頷く。小顔で目がぱっちりした勝ち気な美少女であった。
「あのさ。運命を語る前に、だらしない下半身をどうにかしなって」
「それ、俺のこと?」
信彦が下を向いた隙に女子は自身の教室に、さっさと入っていった。
「マジかよ」
全開になっていたズボンのチャックを急いで閉めた。
「しまらないなぁ」
洒落のような一言で信彦は苦笑いを浮かべた。
昼休みになると調子を取り戻した。信彦は教室を出ると三年二組の教室を覗き込む。
「……なんでだ?」
目当ての女子が見つからない。近くにいた一人の男子に聞くと早退したと言われた。理由を尋ねてみたが詳細は不明だった。
信彦は他の教室を巡る。手応えは一切なく、誰とも出会えなかった。
「そんなことってある?」
納得がいかないまま昼休みは終わった。かなり気力を削られたようで五限目の物理は得意科目にも関わらず、終始、項垂れた状態で過ごした。
放課後になると再び復活を果たす。信彦は教室を飛び出すと芸術科のクラスにまっしぐら。ちょうど廊下に出てきた
串田 美弥子に猛然と駆け寄る。
「美弥子ちゃん、今日も可愛いね。これから俺とデートなんて、どう?」
「ブッブゥ。今日はすることがあるからダメ」
美弥子は歩きながら両腕を胸元で交差させた。しかし、信彦は諦めない。スマートフォンを取り出し、カメラのレンズを向ける。
「ほら、そんな不機嫌な顔をしないで。いつもみたいに愛らしいスマイルを見せてよ」
「そんなこと、言ってもダメだもんね。本当に忙しいんだから」
瞼を閉じて対抗した。その頑なな態度に信彦の笑顔が引きつる。急速に活力を失い、歩く速度が落ちた。
美弥子に気にした様子は見られず、階段を軽快に下りていった。
廊下に残された信彦は項垂れた姿で小刻みに震えた。
瞬間、頭を上げた。意外なことに笑顔がみなぎる。
「燃える展開じゃん!」
困難な状況に気持ちが高ぶる。信彦は愛しい女子を求めて颯爽と歩き出した。
今回のシナリオは「フツウのイラストキャンペーン」で選ばれたイラストを元に作られた内容になっています。
八十八旗 信彦さん、おめでとうございます。コミカルな話になりますが、お付き合いください。
もちろんシナリオガイドに添った行動を取らなくてもオッケーです。PCらしさ全開でお願いします。
シナリオの内容
恋愛をテーマにした一日を描きます。参加したPCは一人を想って行動を起こします。
ですが、全てが空回り状態で上手くいきません。相手によく見せようと着飾ってもどこかで失敗してしまいます。
考え抜いた愛の言葉も間違えたり、一部を忘れたりしてどうしても思った通りにことが進みません。
それでも何とかしようと奮闘しますが、やはりどこかが抜けていて恥ずかしい目に遭います。
神魂の影響というよりも壊滅的な運の悪さに悪戦苦闘を強いられます。
夜を迎えると多少は運が上向き、最後は頑張りが報われることでしょう。
ちなみに恋人関係にあっても例外ではなくて、上手く話が噛み合わず、イライラすることも。
昔に戻ってドキドキする展開もあるかもしれません(GA推奨)。
曜日や時間は自由に指定できます。PCに相応しい時間でお楽しみください。
例1:今日の弘君、少し機嫌が悪いかも。いつもは喜んで食べてくれる手作りクッキーも不満そうに食べているし。
その顔で「美味しい」って言われても嬉しくない。感情的になった私に弘君は理由を打ち明けてくれた。
急に歯が痛みだしたんだって。うん、こっちも「ごめん」で仲直り。ヘンにドキドキしてちょっと新鮮かも。
例2:三年になっても彼女ができない。もうすぐ、高校生活が終わるというのに。
そこで気になる相手に、今日、告白しようと決めた。休み時間、廊下をすたすた歩く藤崎を呼び止めた。
顔の赤さを見て俺はそれだけで手応えを感じた。じっくり言葉を選ばないと。取り留めのない話から核心へ。
一層、藤崎の顔が赤くなる。立ったまま貧乏揺すりを始めた。なんか、おかしいと思っていると怒鳴られた。
「いい加減にして!」と。そのまま女子トイレに入っていった。ごめん、と心の中で謝るしかなかった。
例3:同性を初めて好きになった。この感情をどうすればいいのだろう。わたしは大いに悩んだ。
そのことを知らない響子は朝の挨拶のハグから始まり、わたしがいくところに一緒に付いて回る。
小柄で胸が大きく、抱き心地の良さに常識の一線を超えそうになる。そんな気持ちの高ぶりが抑えられない。
帰りに二人で寄ったファミレスで舌を噛みながら好きの気持ちを伝えた。そしたら照れ笑いで言われた。
キーちゃん、気付くの遅すぎ、だって。そうだったんだ。安心したら涙が零れて数秒で笑顔に変わった。
NPCについて
登録済みのNPCなら、特定のマスターが扱うキャラクターを除き、基本的に誰でも登場可能です。
Xイラストのキャラクターを描写する場合、
PCとXキャラの2人あわせて「1人分」の描写なので、無関係の行動などはお控えください。
※Xキャラだけで1人分の描写とすることも可能です。
その場合は、PCさん自身は描写がなく、Xキャラだけが描写されます。
Xキャラのみの描写をご希望である旨を、アクションにわかるようにご記入ください。
※Xキャラをご希望の場合は、口調などのキャラ設定をアクションに記載してください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、そのURLだけ書いていただければ大丈夫です。
内容は以上になります。
とにかく相手に想いが上手く伝わらない、何かしらの邪魔が入るという、もどかしいシナリオになります。
例え恋人関係にあっても相手の機嫌が悪かったり、間が悪いと上手くことが進みません。
悲恋のような状態で終わることもできます。最後に笑顔になることも。全てはアクションに掛かっています。
新鮮な気持ちで甘酸っぱい体験をしてみませんか(ご参加、お待ちしています)?