あやかし、まやかし、おどかしっこなし。
鶴見 五十鈴は幽霊、人気のないトンネルの先のカーブ、昼なお暗いその場所に深夜ひとりたたずんでいる幽霊だ。
幽霊だって夢を見る。
思念だけとなったこの身なれば、存在そのものが夢のようでは――そんな野暮は言わないでほしい。
見るのだ。前ぶれもなく。
五十鈴が見る夢は多種多様でフルカラーだ。生きていたころの思い出がパッチワークのように組み合わさったものだったり、最近の出逢いに触発されたものだったり、はたまた過去に読んだ物語の影響か、奇想天外ファンタジックに突拍子もないものだったりもする。
この日もそうだった。
気がついたとき五十鈴は茜色の王国にいた。王国領土の上空だ。
縁飾りのついた漆黒の盾を片方の手に、もう片方の手にはやはり漆黒の長槍を握っていた。肩に刻印の入った甲冑も、鳥類を思わせるデザインの兜も射干玉(ぬばたま)の光沢を帯びていた。
五十鈴がまたがっているのは竜だ。竜の色もまた昏(こん)に近い黒、首の付け根には鞍があった。五十鈴は鐙(あぶみ)を踏みしめ、眼下の敵軍勢を睥睨(へいげい)しているのだった。竜は白樺の古木のような香がした。両膝にふれる竜の体躯に、熱い血潮の脈動を感じた。竜が身をくねらせるたび、なめらかで美しい鱗が明け方の空を反射した。
ああ、夢ね。
あっさりと五十鈴は受け入れた。べつに『うらめしや』のクラシックスタイルに固執するわけではないが、湿り気をおびた和風イメージの幽霊たる我が身だ。だからこんな西洋物語風のいでたちというのはいささか慣れない。
でも悪い気はしないのも事実。
王国を守るがわが使命、ブーツのかかとで竜の首を蹴る。人騎一体、心得たとばかりに竜は高度を下げた。五十鈴の黒髪が風を浴びて舞う。
地上より迫り来たる侵略軍は葉の色、といっても春を思わせる浅緑ではなく、もっとずっと濃くて渋みが強くて、枯葉色というのが近い。この軍勢が見渡す限り、山が動くようにして攻め寄せてくるのだ。
軍先陣を切るは、ふたまわりも大きくした狼のごとき獰猛な四つ足が何十頭、獣に曳(ひ)かせる戦車が獣と同じ数だけつづき、それぞれの内には射手(しゃしゅ)がこれまた十数人ずつ押し込められている。指揮官の合図で五十鈴を狙い、弦をならし一斉に矢をはなった。だが黒き竜の前にあってはまるで、たかが小枝か爪楊枝、羽ばたきに飛ばされ届くことすらかなわない。
「蹴散らすよ!」
五十鈴の声に応じて黒竜は、急降下と同時に真っ赤な焔(ほのお)を吹いた。獣戦車隊の中央が爆発する。悲鳴をあげて兵士がはじけ飛ぶ。弓を投げて逃げ出す者あり、火のついた腕で自分の火をはたき消そうとする者あり、これはまだ幸運なほう、瞬間で消し炭になった者が一番多かろう。
さらに竜の焔、焔につぐ焔、たちまち最前線中央が左右に分かれぽっかりと空洞が生まれた。
竜の乙女につづけと角笛がとどろく。王国兵の軍勢が吶喊したのだ。粗末な矢に粗末な剣、兵装も数も敵に見劣りすることはなはだしいが、高い士気で数倍の敵勢を押し返す。
だが王国の優位はつづかなかった。枯葉色の重騎兵隊が割り入ったのだ。やはりすさまじい数、厚く巨大な盾で方陣を組む。陣の内側には槍兵が、さらに内側には巨石を積んだ攻城兵器が居並んでいた。
兵器から真っ赤に熱した巨石が飛んだ。魔法の炸薬(さくやく)でも帯びているのか石は空中で爆発四散し、地上の王国軍、空中の五十鈴と竜をがむしゃらに狙う。
「当たるもんか」
五十鈴の言葉を裏づけるように、竜はたくみに榴弾を回避し、ときに地面すれすれに急迫し、ときに黒点になるほどに上昇し、動くたび敵に打撃を与えつづた。敵の槍は五十鈴をかすめるのがせいぜい、一方で五十鈴の黒槍は、突くたびに犠牲者の数を増していく。
「あっ」
五十鈴は瞬時目がくらんだ。白い光が網膜を焼いたのだった。
空にまたたく閃光は、魔法の力がもたらしたもの。額を狙った矢を本能的に盾で防ぎ、空中で頭を振ってようやくとりもどした視力、こらした五十鈴の眼差しの先には、魔法使いの一団が見えた。よくもかき集めたものだ。三分の一は男性だが残りは女性らしい。枯葉一色の連中とはちがい、色とりどりの衣装に身を包んでいる。戦車や攻城兵器にくらべれば少数だが、勢いという意味では比較にならない。
紫色の火炎になぎ払われ王国兵の一部が崩壊した。勝機とみるや枯葉色の獣戦車たちも息を吹き返し逆襲に出る。重騎士の壁、槍ぶすま、勢いを止めず進み、攻城兵器の弾がついに城壁の一角を砕いた。
いけない。このままじゃ。
空にある五十鈴の頬を汗がつたった。疲れを感じはじめているのか、竜翼も動きが鈍くなっている。
さらに城壁に巨石が命中する。歴史ある石造りの壁がガラガラと崩落する。
ふりかえった五十鈴はしかし、臆さず城壁に立つ人影を見た。
一清(いっせい)……さん?
針金のように痩せた老人である。ボロ布のような灰色のローブに白い長髯(ちょうぜん)、フードをかぶっていはいるが眼光の鋭さは隠れもしない。まちがいなく高僧
一清(いっせい)だった。
中世欧風ファンタジー世界になぜ一清さんが?
でも案外似合うかも。
「喝!」
ファンタジー世界でもやること言うことは同じだというのか、一清が数珠(ファンタジー世界で数珠ときた!)を握りしめた腕を突き出すと、轟然、空から幾筋もの稲妻が侵略者のうえに降り注いだのである。にわか勢いづいていただけに崩れるのも早い。たちまち侵略軍は腰を抜かしたようになった。もちろん王国軍は活力を取り戻す。ときの声をあげて反転攻勢に出た。
「一清さん、おいしいところもっていっちゃって!」
しかし一清はにこりともせず言い放ったのである。
「なんの『おいしいところ』はこれからぞ! 率いよ、王の軍勢を。そこもとは王国の旗印であろうが!」
「そうだった」
竜も生き返ったように吼えて高度を上げる。五十鈴は槍をかかげ叫んだ。
「王国軍よつづけ! 私につづけ! 新年を大いなる勝利にて飾らん!」
五十鈴の鎧兜は日輪を浴び、いまや白銀色に輝いている!
◇ ◇ ◇
ライジングドラゴンは天翔(あまかけ)る。
辰年、起つ年! 天まで昇龍(のぼ)れ! 夢の翼は無限大、大空を自由自在に遊び、世界の壁とてつきやぶる。
あなたの見た夢どんな夢? 素敵な夢を物語ろう。
あけましておめでとうございます!
マスターの桂木京介です。今年は新春シナリオに復帰しちゃいました。
本年もよろしくお願いします。
鶴見 五十鈴さん、ガイドへのご登場ありがとうございました。
辰年(Year of the Dragon)ということで思いつくまま竜が飛翔する物語を書きましたが、参加いただける場合はガイドのイメージにこだわらず、自由なアクションをお寄せください。
夢はうつろいやすいものなので、どんな夢を何本だてで見ようとおかしくなんてないのですから。
概要
毎度おなじみ、イラストのイメージを元に、あなたの見る素敵な初夢を描くシナリオです。
参加方法は簡単、お好きなイラストをイラスト指定するだけ!
開けてみるまで何が飛び出すか分からない、まるで福袋のようなシナリオです。
さあさあ、素敵な初夢! 見てみませんか?
アクション
アクションを送信する際、「指定イラスト」に、以下のいずれかのイラストを登録してください。
・【全身イラスト(S含む)】
・【フリーイラスト(S含む)】
・【フリーイラスト・縦(S含む)】
・【フリーイラスト(合成)】
・【設定イラスト(DX含む)】
・【Xイラスト(パーソナル・コモン)】
※必ず該当のXキャラクターの設定や必要情報を、【Xイラスト】キャラクター図鑑!に投稿してください
各アクション記入欄は、未入力だと投稿できないので、何か一言ご記入ください。
マスターへの激励、その他特に意味のない言葉など、何でも構いません。
※ご記入いただいた内容は、基本的にリアクションには反映されません。
複数人で同じイラストを指定する場合、GAを組むことで、
いっしょにリアクションで描写されることもできます。
※GA指定がない場合、個別描写となる可能性があります。
指定イラストに、シナリオに参加したPCさん(Aさん)とシナリオに参加していないPCさん(Bさん)が
いっしょに描かれている場合、Bさんは描かれず、Aさんのみにスポットライトがあたる描写となります。
この場合、イラストに描かれている場面・瞬間とは違うシーンがリアクションになるなど、
プレイヤーさんの想定している内容から外れてしまう可能性もありますので、あらかじめご了承ください。
NPCについて
NPCとのイラストを指定することもできます。
特定のマスターが扱うNPCでなければ、基本的にはリアクションでも描写されます。
また、Xキャラクターも登場可能です。
※Xキャラだけで1人分の描写とすることも可能です。
その場合は、PCさん自身は描写がなく、Xキャラだけが描写されます。
Xキャラのみの描写をご希望である旨を、アクションにわかるようにご記入ください。
※Xキャラをご希望の場合は、口調などのキャラ設定をアクションに記載してください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、そのURLだけ書いていただければ大丈夫です。
どなたでも、お気軽にご参加ください!