異世界アルカニア。
そこは魔法と剣が支配する世界。世界には魔物が生息し、人々はその魔物と時に戦いながら生きている。
そんな世界に煌びやかな光を放つ森があった。そこは水晶の森と呼ばれ、水晶で構成された樹木が生える不思議な森だ。
森の奥地で剣を振るう音が聞こえる。一回、二回……その音は何度も繰り返して木霊していた。
光り輝く剣を振るうのは勇者の少女【ナディス】。彼女はこの異世界アルカニアの出身で当代の勇者だ。
緑色の短い髪、可愛らしい顔に大きな胸とその見た目は普通の少女と何ら変わらない。だがその瞳には明らかな闘志が宿っており、肩で息を切らしているが剣を振るう手は止まらない。
「はぁ、はぁ……まだ、いける。まだ……もっと、強く、ししょーみたいに!」
彼女が視線の先に想い描くのは、寝子島で出会った師匠である
風雲児 轟の姿。彼の下で彼女は勇者として、ヒーローとして修行を積んでいるのだ。
今、ここに轟の姿はないがそれでも師匠ならばこうするだろうとナディスは一人で修行に励んでいた。
この水晶の森は特殊な魔力に包まれており、立ち入った者に体がだるく、重くなる効果を与える。それはまるで重りを付けて行動しているかの如く。
それ故に、負荷を掛けた状態での修行にはもってこいの場所なのだった。
彼女は前回の戦いで相手に止めを刺すことができなかった。それは彼女の優しさ故の失敗だ。だがその優しさは勇者として必要なことでもある。
振るう度、彼女の刃は鋭く研ぎ澄まされていった。もう二度と、同じ失敗はしないのだと。彼女は願い、剣を振るう。
何度目かの素振りの後、ナディスは光の剣を霧散させるとその場に座り込んだ。どうやら限界のようである。
足を投げ出し、地面へとナディスは寝転んで空を眺める。空は青く澄み渡っていた。
「はぁ……はぁ……もう体、動かないや。ししょー、みたいに、なれるかなぁ」
呼吸を整えながら小休止していると、ナディスの耳に悲鳴が届く。それは小さな少女の声だった。
ばっと飛び起きるとナディスは走り出す。疲れなどどこかへ吹き飛んでいた。
(ぐっ、体がやっぱり重い! でも、急がないと!)
木々の間を抜けて彼女は駆けていく。しばらくすると開けた場所に出た。そこは近隣の村の木こりが伐採に来ている伐採地のようで、斬り倒された水晶の樹や切り株が辺りに並んでいる。
その中心に倒れた木こりが数名と一人の少女がいた。少女は今にも泣き出しそうな表情で腰を抜かしているようだ。
「グゥウウガアアアアアアッ!」
地が揺れるような咆哮を放ったのは、水晶で体が構成された巨大な狼【クリスウルフ】だった。背中には無数の水晶が生えており、尻尾は四本。どれも水晶の刃が付いているようだ。
クリスウルフが腕を振り上げるのとナディスが走り出したのはほぼ同時だ。駆けながらナディスは光の剣を顕現させる。
少女とクリスウルフの間に割って入るとナディスは振り下ろされた巨大な爪の一撃を光の剣で受け止めた。ずしりと重い衝撃が体を揺らすが歯を食いしばって耐える。
「大丈夫!? ここは私に任せてあなたは逃げて!」
「え、あ、う……っ」
ナディスは爪を弾き返しながら剣戟を放った。だがその刃は硬い水晶の装甲に阻まれ、有効打は与えられない。
見れば木こり数名はもう息絶えているようで、少女も腰を抜かしており完全に恐怖に飲まれて動けないようだった。
「動けそうにないみたい、だったら私が――――っ! まずいっ! 現れるは光壁、穿たれぬ盾となれっ!」
咄嗟にナディスは光の障壁を展開し、少女と自分を守る。直後、クリスウルフの口から極太のレーザーが放たれ彼女たちを襲った。光は地面を焼き、障壁に阻まれ二つに裂けた。
「くっ、はぁはぁ……魔力の負荷も、段違い……これじゃ、次は防げないっ」
今、彼女の背後には恐怖に飲まれた少女がいる。それは勇者である彼女が守るべき人だ。力なき誰かの盾であり刃、それが勇者なのだから。
雄たけびを上げながらクリスウルフは尻尾を振るう。尻尾の先にある鋭い刃がナディスと少女を襲うが、それらをナディスが光の剣で打ち払った。
打ち払う度に光の剣がその光を増していく。そしてついに強く輝くとナディスの身体が光に包まれ、次の瞬間、光の鎧が彼女の身体を覆っていた。よく動く個所は薄く、急所となる位置は厚く、動き回る彼女に適した光の鎧がそこにあった。
「これは、体が軽い……! これならっ!」
少女を守りながら、ナディスは何度も剣を振るう。
刃が通らずとも、自分が何度地面に叩きつけられようとも。その刃は止まらない。
守るのだ、自分の背後にいる少女を。
彼女はその一心だけで動いていた。
「はぁ、はぁ……まだ、私は、うご、けるっ!」
片腕からは血を流し、脇腹の衣服は血で滲んでいた。傷がない部位を探す方が難しいほどに彼女の身体はぼろぼろだ。光の鎧にも血が目立つ。
下がりそうになる片腕を気合で上げると、その切っ先をクリスウルフへとナディスは向けた。
「私は……絶対に負けない、諦めない! それがヒーロー…………勇者だからっ!」
◆
「おい、ちーあ、こいつはもっと早く飛べないのかよ!」
「無理なのですよー! これで全速力なのですっ!」
水晶の森の上空を飛んでいる小型の飛空艇が一つ。それは異世界の少女【ちーあ】が作成した小型飛空艇だ。
かなりの速度を出してはいるが、いまだ目的地である水晶の森の伐採地は遠い。
飛空艇を操作するちーあの隣で
風雲児 轟はそわそわしていた。
いつもであれば、目的地へはちーあの転移ゲートを使えば簡単に到達することができる。
だが今回に至っては、水晶の森の特殊な魔力の影響で“転移ゲートが使用できない”のだ。それ故に、寝子島の者たちを乗せた小型飛空艇で森の上空をかっ飛ばしているのだが。
「くそ! ナディスが一人で頑張ってるっていうのによ! もっと早く……おい、ありゃなんだ!?」
轟が視線を向ける先、小型飛空艇の進路方向に浮かんでいる女性がいる。赤い髪を持つその女性……【マルム】は、にやりと笑うとその手から極太のレーザーを放った。
白い閃光が小型飛空艇の片翼を貫き、その翼をもぎ取る。
その瞬間、小型飛空艇はがくんっと高度を落とし墜落していった。
「うきゃあぁぁあああ!? ふ、不時着するのですぅう!」
ちーあが機首を上げたことで、胴体を地面へ擦り付けながら小型飛空艇は滑っていき、大きな水晶の樹に衝突してやっとその動きを止めた。機体の各所からは黒煙が上がっているが、火災はなく、爆発する様子も今の所はない。
「いつつ……ひでぇ目にあったぜ。みんな、無事か!」
「荷物がひっくり返ったぐらいでぇ、みんな無事みたいですねぇ」
轟の声に反応したのは金髪紅眼の女性【ツクヨ】だ。相も変わらず乳が零れだしそうな着物を着ている。
彼女の言う通り、乗っていた寝子島の仲間たちも大きな怪我はないようだ。
「ひぃいいいい! 外がやばいのですよ! 絶体絶命なのですぅ!」
「一体何が……ってうお!? なんだありゃ!?」
恐怖に慄いているちーあをどけて窓の外を見ると、小型飛空艇の周りを背中に水晶を生やしたゾンビのような者たちが囲んでいる。その数は数えるのが嫌になる程に多い。
「このままじゃこいつがぶっ壊されちまう、応戦にでねぇと……」
「待って。さっきの攻撃から考えると、これは私たちを足止めする罠だわ。だったらここは私たちに任せて、あなたは何人かを連れてナディスさんの所へ急いだ方がいいと思うの」
飛び出そうとした轟を引き留めたのは
神野 美野梨だった。彼女は状況を冷静に判断し、最善と思える行動を彼に提案する。
「だがすげえ数だぞ?」
「大丈夫、こっちにはツクヨさんもいるし、他の皆もいるわ。助けに行きたいんでしょう、一刻も早く。顔にそう出てるわよ。だからあなたはナディスさんの所へ急いで」
「……わかった。少し心配だが、ここは任せるぜ!」
それだけ言うと轟は数名の仲間たちと共に小型飛空艇から飛び出し、ゾンビの囲いの薄い部分を突破、水晶の森の奥へと駆けていく。
追いかけようとするゾンビたちへ小型飛空艇に備え付けられているマシンガンを操作すると美野梨はそれをゾンビの群れへと掃射した。
鋼の弾丸に撃ち抜かれたゾンビたちは、ばたばたと倒れていくが地面から這い出るように新たなゾンビが現れる。
「キリがないわね。でもやるしかない……さあ、かかってきなさい」
強い瞳でゾンビたちを睨むとマシンガンの銃口を美野梨はゾンビたちへと向けるのであった。
初めての人もそうでない人もこんにちわ、ウケッキです。
異世界アルカニアの第二話となります。
水晶の森にて、窮地に陥った勇者ナディス。
新たな力が芽生えたようですが、満身創痍の状態ではそれも長くはもたないでしょう。
小型飛空艇を撃墜したマルムは身を隠しているようです。
何かしらの妨害を行ってくる可能性がありますのでご注意を。
森には目玉に羽が生えたマルムの【使い魔】が飛んでいます。
それを撃破することができれば、マルムの居場所も分かるかもしれません。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
◆場所
異世界アルカニア・水晶の森・伐採地
:異世界アルカニアにある、水晶の樹が生えている森。
その樹は特殊な工具で無ければ伐採できない程に硬いです。
森の中は水晶が放つ特殊な魔力により、ろっこん能力や身体能力が【半減】します。
小型飛空艇・墜落地
:ちーあの小型飛空艇が墜落した場所です。伐採地とは走って30分程の距離があります。
小型飛空艇は水晶の樹に突っ込む形で地面に腹を付け、右に傾いています。
◆予想されるルート
ナディスを救援する為、クリスウルフを討伐する 同行者:ナディス
:満身創痍のナディスの元に駆け付け、クリスウルフを討伐します。
ナディスは深手を負っていますが、治療することができればその勇者の力は戦闘の助けになるでしょう。
小型飛空艇の周りにいる水晶ゾンビを相手取る 同行者:ちーあ、ツクヨ
:墜落して身動きの取れない小型飛空艇を守りながら水晶ゾンビを倒すルートです。
水晶ゾンビは次々と土から湧きだし、その数には制限がありません。
クリスウルフと何かしらのリンクが張られているようで、クリスウルフが討伐されると増援は停止します。
マルムの使い魔を探す
:マルムの使い魔を探して討伐し、マルムを探します。
彼女は使い魔を通じて観察しており、使い魔を討伐することでその残滓から居場所がわかるかもしれません。
◆登場する敵
クリスウルフ
:背中にいくつもの水晶が生えた巨大な狼です。四本ある尻尾には水晶の刃が生えています。
素早い動きで攻撃して来る他、極太のレーザーを口から放つ、細いホーミングレーザーを放つ、
辺りに防御シールドを張る、などその行動は多彩です。背中の水晶が何やら周囲の魔力を集めているようです。
水晶ゾンビ
:背中に大きな水晶が生えたゾンビです。その動きは遅いですが、痛覚がない為に攻撃を受けても怯みません。
元が死体の為か、その身体は脆く、とても燃えやすいです。
なお、爪には麻痺毒を持っておりこれを受ければしばらくの間、行動不能となるでしょう。
マルム
:異世界アルカニアをかつて滅ぼしかけた存在。
手からレーザーを放つほか、光弾を複数放つなど広範囲攻撃を持ちます。
伸ばした爪の一撃は鋭く、鋼すら容易く裂いてしまうでしょう。
◆ちーあの支給装備
この中からひとつ選択することができます。
マキシマム・ブーストナックル
:ちーあが開発したアビス粒子を原動力とするナックルです。
内蔵されたブースターを殴打と共に点火することで拳の威力を最大限引き上げます。
リミッターを解除することで、アビス粒子を吹き出し超常的な加速のパンチを放てますが、
身体への負荷は大きく、リミッターを解除して放てば腕は無事では済まないでしょう。
ヤバイ味カプセルボックス
:ヤバイ味のカプセル12粒入りの箱です。小型であり、ポケットに入るサイズ。
3粒飲むことである程度の傷を回復しますが、スタミナは戻りません。
なお、味はその飲んだ人物が最も【ヤバイ】と思う味になります。
小型飛空艇装備・マシンガン
:小型飛空艇に備え付けのマシンガンです。残弾は豊富にあるので弾切れの心配はありません。
これを選択した場合、使用中は小型飛空艇の甲板から動けなくなります。
甲板の両サイドに一つずつ装備されています。それぞれ180°方向への射撃が可能です。
ちーあによって特殊接合されている為、これを取り外すことはできません。
◆登場人物
ちーあ
:皆様を非日常に放り込む張本人。絶壁ロリで元気いっぱいな機械生命体。でも見た目は人と変わらない。
ありとあらゆるコンピューターにハッキングできるが割とポンコツの為、よく失敗する。
日夜怪しい研究品を開発している。それらが役に立つかどうかは皆様しだい。
最近は唐揚げにハマったようで、とあるファミレスに通う日々。
ツクヨ
:わがままボディを持つ金髪紅眼の女性。戦闘狂であり、三度の飯より戦闘が好き。
中距離では赤い鎖を鞭のように扱い、近距離では二本の赤い長剣で戦うオールラウンダー。
攻撃魔法も扱える万能さ。なお胸はFカップ。
最近、回復魔法も使えることが判明したがもっぱら敵への拷問にしか使っていなかった模様。
寝子島のファーストフードにハマっており、気が向けば訪れている。
敵が強ければ強いほど燃えるタイプ。
実は料理が得意で、レシピさえあれば大体の物は作れる模様。
ナディス
:異世界アルカニアから勇者修行のために寝子島へ来ている少女。
この世界で出会った師匠に追い付く為に一生懸命努力中。
近接格闘と魔術を組み合わせたスタイルが特徴。高威力の魔法の命中率はいまだ低い。
なお胸は最近はEカップになったとか。
ホラー映画が苦手で、勇者がそれではいけないと克服しようと挑戦中。