異世界アルカニア。
寝子島が繋がった数ある世界の中でも【剣と魔法】が支配するファンタジーな異世界である。
勇者という強大な力を持つ存在により、この世界は長らく平和な状態にあった。それは強大な悪意が現れてもその悪意を持つ存在を勇者が葬ってきたからに他ならない。
数百年前、異世界アルカニアに一人の悪意が生まれる。
その存在は名を【マルム】と言った。血のように赤く長い髪と金色の目を持った少女。
彼女は目覚めてから数日の間に、アルカニアの主だった首都を戯れに壊滅させると世界に自らの分身たる【魔獣】を放った。
魔獣は原生生物として存在する【魔物】に比べ、圧倒的な力を持ち人々は脅威にさらされた。
数々の国が消滅し、人類の存亡が危ぶまれたその時……勇者の力を持つ一人の青年が自らの命と引き換えにマルムと魔獣たちを封印することに成功したのだ。
勇者亡き後、残された人々はアルカニアに再びマルムの脅威をもたらさない為に、次元の彼方へとマルムと魔獣を封印したのだった。
それから数百年後、アルカニアは繁栄の兆しを見せ、かつてほどではないにしろ世界は元の姿を取り戻しつつあった。
だが魔獣の脅威が去り、強大な悪意がない数百年の間に原生生物である魔物との闘いのみが日常となったアルカニアでは戦力の低下が際立っていたのだ。
魔物は魔獣よりも能力的には弱く、一体では脅威となり得ない個体も多い。
それ故に戦士や魔導士などアルカニアにて戦う任務に就いている者たちの練度は次第に下がっているのだ。無理もない。強力な相手がいないのなら強すぎる力は持っている必要がないのだから。
異世界アルカニア。レーン大陸・首都【レイオルニス】。
「では、お前の進言通りその遺物が眠るという洞窟の採掘の許可を出そう。遺物が出た暁にはその研究を任せるがそれでよいかな?」
玉座に座るレイオルニスの王【レグード・レイオルニス四世】はそう言って、頭を下げて跪く女性を見る。女性は簡素なローブに身を包んだ研究職の魔導士のような出で立ちだった。
顔を上げた女性は金色の目を柔らかに歪ませながら、口角を上げて笑う。
「ええ、お任せを。全力で研究し……他国の追随を許さない兵器を完成させて御覧に入れますわ」
「うむ。期待しているぞ、隣国【アリキシア】の動きも騒がしい。我々はかの国に魔導技術で遥かに劣っているのだ、なんとしてもその遅れを取り戻さねばな」
「必ずや……そのご期待に添うことをお約束致しますわ」
謁見を終え、謁見の間を後にした女性は廊下を歩いて研究棟として彼女に与えられた場所へと足を向ける。
木の扉を開け、部屋に入ると女性はふうっと溜め息一つ。身体を伸ばすと手近な椅子に座った。
「全く、低能な生物に会話を合わせるのは疲れるな。だがこれも楽しみの為……魔獣を一体でも掘り起こせれば、後は上手くいく。くくく、さて、どう作り替えていこうか」
彼女が視線を送る先には手術台のような大きな机がある。その上には縛り付けられた一人の兵士が寝かされていた。四肢は拘束され、身動きはできないようだ。その腕や足は一部が異形化しており、黒い装甲のような物に覆われている。
「加減はどうかな? ふふ、まだ馴染みきっていないようだが……なあに、次の薬で良くなる。私特製の、コレでな」
「うぐぐ、ふぐぅうう! んぐぐぐーー!」
女性は兵士へ近づくと赤い液体が詰まった注射器を見せる。にやりといやらしい笑いが零れた。
「これが見えるだろう。これはアビス粒子を抽出し、液体に溶かし込んだものだ。喜べ、お前はこれによって強くなる……今以上に。まあ、自我が保てる保証はしないがな、はっはっはっは!」
震える兵士などお構いなしに女性は注射器の液体を兵士へ打ち込み、彼の体の中へとその液体を注入していく。
直後、兵士はがくがくと震えながらその身体は変貌し――彼の姿は異形へと変わっていった。
「くくく、体の内に力が溢れるだろう? さあ、その新しい体を故郷の者たちに見せてはどうだ? 私が送ってやろう……お前の故郷へと今すぐにな」
何もない空間へ手をかざすと、女性はそこに黒いゲートのようなものを作り出した。その向こう側にはのどかな田園風景が広がっている。
異形となって兵士の拘束を解くと、女性はゲートの中へ彼を放り込みゲートを閉じた。部屋に静けさが訪れる。
「さて、故郷への久々の帰郷だ。彼はどうなるだろうな……くくく、私はそれを観察してデータを取るとしよう。今後の為にもなぁ」
にやにやと笑う女性は実に楽しそうだ。
部屋の片隅に置かれている鏡に彼女の姿が映る。その姿はここにいる彼女の姿と異なっていた。赤い色の長い髪に金色の目。そう、彼女の姿は……マルムだ。
魔導研究者の女性へと化けたマルムは笑う。再び、この地に自らが恐怖をもたらす為に。
寝子島。ちーあの部屋。
部屋に座った
姫神 絵梨菜は驚愕の表情を浮かべた。彼女が眺めるモニターには燃え盛る村の姿が映っている。
「……酷い、こんなの、一方的な虐殺だよっ!」
声を荒げる彼女の前に座っていたちーあはモニターの映像を切り替える。するとそこには巨大な二足歩行の異形が映し出された。黒い装甲に包まれた全身に、肥大化した両腕や両足は逞しい。その爪は鋭く、口からは紫色の炎を吐くようだ。
「これは30分後の出来事なのですよ。異世界アルカニア、そのある村にて異形の存在が突如襲撃……辺りを火の海に変えたのです」
「数分後? じゃあ、まだこれは起きてないってこと?」
絵梨菜がそうちーあに聞くと彼女はこくんと頷いた。それを見て絵梨菜は少々安堵する。まだ起きていないのならば、これからそれを防ぐことができる、ということなのだから。
「異世界アルカニアへのゲートは寝子島と繋がったままなのです。現在はちーあがいつでもどこからでも繋げることができるのですが、こちらと時間のずれがあるのか30分のラグが発生してしまうのです。これは時空気流が乱れる影響で――」
「あううう、ごめん、何言ってるかわからないよぉ」
頭痛が起きたかのように眉間にしわを寄せながら頭を抱える絵梨菜の隣から
ティオレ・ユリウェイスが顔を出す。
「まああれだ、今見える事件を解決しようとアルカニアに行こうとすると、どうやっても事件の30分前に着いちまうってことだろう? ま、解決する側としたら好都合じゃないか」
「はいなのです。なので、今回はあの異形、仮に【デスクルザ】としますが彼を止めて村を守って欲しいのですよ」
ちーあの言葉に絵梨菜が頭にはてなを浮かべる。異形であり、魔物のように見えるデスクルザを彼と言ったことが気になったようだ。
「彼? えっと、まさか……!」
「そうなのです。あの異形は――元人間なのです。それも村出身の兵士の方のようなのですよ」
それを聞いたティオレは苦々しい顔を浮かべる。
「……兵士を異形化して故郷の村を襲わせる……か、悪趣味にも程があるね」
「故郷を……そんなの酷いよっ! ちーあちゃん、なんとか助ける方法は――」
ちーあに詰め寄る絵梨菜に対し、ちーあは残念そうに顔を横に振った。
「――あそこまで異形化した人間を元に戻す方法は、知らないのです」
言葉を失う絵梨菜の肩にティオレが手を置く。
「向こうに着くのはさっきの光景の30分前なんだ。まだ奴は村を焼いていない。故郷を自ら焼くっていう悲劇を自分の手で起こさせる前に……あたしらの手で、安らかに眠らせてやろうじゃないか。そいつが慈悲ってもんだ」
ティオレの言葉に絵梨菜も黙って深く頷いた。
「それだったらこうしちゃいられないよっ! 私はあの世界の勇者だもん。こういう時こそ、助けに行かなきゃ!」
その時、立ち上がったのは緑髪の少女。彼女はナディス。異世界アルカニアの現勇者であり、修行の為にこの寝子島へやってきているのだ。故郷であるアルカニアで何かが起きているのなら、立ち上がらない理由はないだろう。
「では、各自の準備が整い次第、ゲートを開くのです。皆さん、くれぐれも気を付けて行くのです!」
小さな手を思いっきり天井へ向けて突き出したちーあに合わせ、その場に集まっていた寝子島のメンバーは掛け声を上げる。
こうして、異世界アルカニアの村を救援する為に【異形・デスクルザ討伐作戦】が始まったのであった。
異世界。アルカニア。地方にある村近辺。
森の木々を踏み倒し、異形がゆっくりと歩いている。
(俺は……どうなって、しまったんだ? 頭が、ぼーっとする、背も高いし、なんだ、これ?)
異形が気を倒しながらぬっと顔を出すとその眼前に一人の木こりがいた。その木こりは腰を抜かし、驚愕の表情を向けている。
(あれは……懐かしいなぁ、トーラおじさんじゃないか。おじさん、久しぶ――――)
彼が声をかけようとした瞬間、異形の口から紫色の炎が放たれ……木こりは炎に包まれてそのまま炭となった。
真っ黒こげになったおじさんへ手を伸ばすが、その異形化した手が触れる前に炭となった木こりはがらがらと崩れ去る。
(あ、あああっぁあ、俺は、なんで、うわあ、あああああああああああああああ!)
森に悲しき異形の声が響き渡る。鳴き声と共に炎を撒き散らし異形が村へと向かっていく。
その道中で別の木こりを見つけるが、彼が声を掛ける前に逃げ出し、咄嗟に走ったせいで転んだ木こりを起こそうと異形が手を伸ばすがその爪は無慈悲にも木こりを斬り裂いて絶命させる。
(なんで、こんな、やめろ、やめてくれええ、声が、俺の中で、声が、聞こえる、いやだ、こんなの、いやだあぁぁああああああ!)
内なる声が異形に告げる。殺せと。全てを焼き尽くせと。
彼はそれに抗うことができず、見知った知人を自分が殺す様を見せつけられていく。次第に彼の心は音を立てて壊れていった。
その様子を遠く離れた土地から、小さなモニターで観察しているマルムはにやにやと笑顔を見せた。傍らにあるワインを食いっと飲み干すと、つまみとして用意したのだろう、ナッツを頬張った。
「思った以上にいい出来のようだな。あの動転の様だと、自我が僅かに残っているか、ふふ……思った以上に面白い見世物になりそうだ」
初めての方もそうでない方もこんにちわ、ウケッキです。
今回は異世界アルカニアが舞台のお話となります。
マルムによって異形に改造されてしまった一般兵士。その彼が向かったのは故郷の村。
村が焼き払われ、住民が虐殺される未来を変えるには、
内なる殺戮衝動によって心が壊れてしまった彼を討伐し、村を救うしかありません。
異形デスクルザとなってしまった彼を救う方法はありません。
皆様の手で、悲しき涙を流す獣を安らかに眠らせてあげてください。
デスクルザは“攻撃を受けても応戦しながら村を目指す”という特性があるので注意してくださいませ。
◆予想されるルート
異形【デスクルザ】を討伐する 同行者:ツクヨ、ナディス
:デスクルザを村に到達させない為に森の出口で迎え撃ちます。
森の出口は広い平原であり、障害物の類はありません。
デスクルザは何か策を講じない限り、村へとゆっくり進軍し続けるので注意が必要です。
魔物【レキオ】を討伐する 同行者:ちーあ
:デスクルザが森を荒らした為、森に住む獅子の魔物【レキオ】が群れで村に向かっています。
レキオはデスクルザから逃れる為に森を脱出したようですが、
興奮状態でありそのまま村に到達すれば村人へと襲い掛かってしまうでしょう。
群れで襲ってくるレキオを討伐し村を守るルートとなります。
◆登場する敵予測
異形【デスクルザ】
:全身が鋼鉄のような硬さを誇る青い装甲で覆われている二足歩行の異形です。
両腕、両足が肥大化しており、その足や腕から繰り出される一撃は脅威でしょう。
また紫色の炎を放ちますが、この炎は非常に高温です。真面に受ければ無事では済まないでしょう。
魔物【レキオ】
:獅子頭の魔物。体つきはライオンに似ています。
瞬発力が高く、その力は容易に鉄を斬り裂きます。
素早く移動しながらの噛みつきや引っ掻き、飛び掛かりに注意です。
◆支給装備
こちらから一つ選んで持っていくことができます。
・ちーあ印のハンマーステッキ
:見た目はただの小さなステッキですが、これを敵に向かって振ると大きなハンマーが現れ敵を殴ります。
軽く扱いやすさを重視された為、ある程度の追尾機能があり、
自分の目で捉えている相手は追尾して殴ってくれます。
なお10回に1回くらいのタイミングでどこからともなく【金だらい】が降ってきます。
・音速の太刀【絶音竜閃】
:内部機構の加速機能により、音速の居合斬りが可能となる装備。
リミッター状態であれば攻撃アシスト機能により、誰でも居合斬りが使用可能です。
なおアシストはオフにできます。
リミッターを解放した場合、光速に近い居合斬りを放つことができますが、
体のダメージを無視する為に人体の限度では一発が限界です。激痛に耐える根性があれば二発まで可能。
それを行使した場合は作戦終了まで身動きが取れなくなるでしょう。
・魔導杖【フレアリッター】
:魔法を内包した宝珠が装填されている長杖です。
これを用いればチャージゲージの続く限り、下記の魔法を行使できます。
チャージは最大で5。3分で1回復します。魔法一回の使用で1消費。
・回復魔法:傷を癒せます。ただし、体力は戻りません。(疲労はそのまま)
・攻撃魔法:魔法の矢を飛ばします。ゲージを追加で3消費することで3発の矢を同時に放つこともできます。
・試作防御盾【ブレイズシールダー】
:デスクルザの放つ高温の炎への対策の為、作成された頑強な重い盾です。
炎の直射に耐える為にアビス粒子を動力として身を包むほどの赤いエネルギーシールドを形成、
炎の熱とダメージをカットします。
ただし試作型の為か連続稼働時間が短く、10秒以上稼働すると火を噴いて破損します。
破損した場合、5秒後に爆発します。
なお、エネルギーシールドを展開しない場合、普通の硬い盾としての運用も可能です。
◆登場人物
ちーあ
:皆様を非日常に放り込む張本人。絶壁ロリで元気いっぱいな機械生命体。でも見た目は人と変わらない。
ありとあらゆるコンピューターにハッキングできるが割とポンコツの為、よく失敗する。
日夜怪しい研究品を開発している。それらが役に立つかどうかは皆様しだい。
最近、ネット通販で大容量のアイスを頼むことを覚えた。
ツクヨ
:わがままボディを持つ金髪紅眼の女性。戦闘狂であり、三度の飯より戦闘が好き。
中距離では赤い鎖を鞭のように扱い、近距離では二本の赤い長剣で戦うオールラウンダー。
攻撃魔法も扱える万能さ。なお胸はFカップ。
最近、回復魔法も使えることが判明したがもっぱら敵への拷問にしか使っていなかった模様。
寝子島のファーストフードにハマっており、気が向けば訪れている。
敵が強ければ強いほど燃えるタイプ。
ナディス
:異世界アルカニアから勇者修行のために寝子島へ来ている少女。
この世界で出会った師匠に追い付く為に一生懸命努力中。
近接格闘と魔術を組み合わせたスタイルが特徴。高威力の魔法の命中率はいまだ低い。
なお胸は最近はEカップになったとか。