海の匂いを微かに帯びた朝の風が、寝子島神社境内にずらりと並んで吊るされた風鈴を鳴らして過ぎる。
チリチリシャラシャラ、涼し気な音が飾るは風鈴よりも多く列為す真っ赤なほおずき。暑気避けの竹簾が青空を遮って渡された屋台の傍を過ぎれば、
「ほおずきいかがですかー」
「ほおずきどうぞー」
屋台の主たちがしきりと呼び込みを掛ける。風鈴の音や訪れた人々の賑わいと混ざり、境内は正にお祭りの様相。
今日は年に一回、朝から夕まで寝子島神社にほおずき市が立つ日──
〇〇〇●〇〇〇
窓から流れ込んできた風に頬を撫でられ、
万条 幸次は今の今まで閉じていた瞼を擦った。
額に滲む汗に、窓辺で回す扇風機の風は温い。
(……なんか)
夢を見た。大きな三角の狐の耳にもっふもふの狐の尻尾を生やして、真っ赤な景色の中をくるりふわりと舞っては笑う、不思議な夢。
涼を求めて床に転がり、そのままお昼寝に雪崩れ込んだはいいものの、夏の暑気はどうにもならず汗ばんだ頭に触れる。狐の耳は生えていない。ろっこんによる猫耳も生えてはいない。
起きたか、とばかり額に猫パンチをくれる飼い猫の黒白ハチワレ猫の花遊の頭をごしごし撫でる。おはよ、と呟くも、壁に掛けた時計が示しているのは昼下がりの時間帯。
花遊と床にごろごろ転がりながら、このあとの予定を考える。もう少し涼しくなったら夕飯の買い出しに行ってみようか。
暑さに負けて転がるばかりの耳に、遠い風鈴の音が聞こえた。耳を澄ませば、窓の外からお祭りらしい賑わいが聞こえる。
そういえば、と思い出したのは、よく行くスーパーマーケットに貼られていた『ほおずき市』のポスター。昔は漢方薬として使われていたほおずきは、今は夏負けの厄除けに健康祈願、ひいては病魔退散の縁起物の植物としてこの時期買い求められるものらしい。
ちりん、という風鈴の音を聞いた気がして、窓の外にもくもく沸き立つ入道雲を眺めやる。
「花遊、行ってみようか」
返事のかわり、あくびをする花遊のつやつやの毛並みを頭から尻尾までひとなでする。
それとも、大好きなあの子を誘ってみようか。
〇〇●●●〇〇
ほおずきの鉢植え、束にして吊るしたほおずき、実だけ袋詰めにしたほおずき、パック入りの食用ほおずき、外皮を葉脈だけ残し橙色の実が見えるように細工した透かしほおずき。
種々さまざまにほおずきが並ぶ屋台に、かき氷やたこ焼き、お団子に焼き鳥の屋台が軒を連ねる境内は、観光客に地元のお祭り好きな人々、通りがかりにふらりと迷い込んだ人々で大賑わい。呼び込みの声に風鈴の音、笑いさざめく声に紛れて、
「ほおずきちょうだい」
「ほおずきちょうだい」
小さな声の持ち主が屋台の端にひょいと飛びつく。浴衣姿の頭には三角の耳、細い足が覗く浴衣の裾からはもふもふ揺れるお揚げ色の尻尾。
けれど店の人々も、行き交うほとんどの人々も彼女たちには気づかない。
ぷつりぷつり、屋台に飾られたほおずきが小さな掌でちぎられる。ひとつふたつ、小さな掌に納まった真っ赤なほおずきは、彼女たちが口の中でなにごとか呟いた途端にぽんと弾けて、ふわり、白い煙を撒き散らす。通りがかりのひとが偶然煙に触れれば、そのひとの耳にも三角耳に三角尻尾。
「キャア」
「おそろい、けものけもの」
浴衣姿のふたりの他にも、人波に紛れて尻尾持つ小さな幼子たちがあちらこちらのほおずきに手を伸ばしている。
「けものけもの、みーんなけもの!」
「もどりたければほおずき持ってお池の洞まで寄っといで!」
キャアキャアと笑い転げ、幼子たちはほおずき市を駆けまわる。
こんにちは!
今回は、寝子島神社で催される夏の風物詩、ほおずき市へのお誘いに参りました。
ガイドには万条 幸次さんにご登場いただきました。ありがとうございます!
もしご参加いただけますときは、ガイドに関わらずどうぞご自由に行動してください。
のんびりフツウのほおずき市を楽しまれるのも良さそうですし、耳福池のほとりに空いたひんやり涼しい洞窟内でちょっと不思議な体験もできます。
その他、ほおずき市のお祭りに関することでしたらご自由にどうぞ。
いくつか場所をご用意してみました。【キャラクターの行動・手段】の欄に番号をお書きください。
ぜんぶとなると描写が薄めになったりあちこちにちらりと顔を出すだけになってしまう可能性が御座いますことをご了承ください。
1 ほおずき市
寝子島神社で年一回行われるほおずき市が今年も開催されます。
真っ赤なほおずきを扱うお店が参道にずらりと並び、その合間を縫うようにしてかき氷や金魚すくい、和菓子やほおずきをモチーフにしたアクセサリーなどの屋台も開いています。参道の奥ではふるまい酒も行われています。
屋台の軒や日除けの屋根替わりの簾にはたくさんの風鈴が掛けられ、涼しい音が鳴り響いています。
いろんなかたちで売られているほおずきや屋台の品物を買って回るのも楽しそうですし、大切なひとを誘って一緒にほおずき市を回ってみるのも楽しそうです。もちろん、ふらりと通りがかってなんとなしに覗いてみるのも。
どうぞご自由にお楽しみください。
2 耳福池のほとり(昼)
寝子島神社北部にある耳福池のほとりの山肌に、ぽっかりと洞窟が開いています。こどもの背丈ほどの入口にはこどもの背丈ほどの鳥居が立っています。
ほおずき市で手に入れたほおずきを手に洞窟の前に立てば、洞窟内の石灯籠にふわりと光が宿ります。蒼白い狐火の灯籠を辿って行けば、伏せたお椀状になった広い空間に出ます。
そこには大きなお布団が敷かれていて、うんうん唸りながら巨大な狐が寝ています。周りでは子ぎつねたちがお湯を沸かしてはほおずきを放り込んで煎じています。
・壱郎太
布団で辛そうに寝ている大狐。変化する力もなく狐の姿のままです。
こんこんと咳をするたびに周りに花が舞い散ります。あたりは花だらけです。
よく見れば何本も尻尾があります。
・壱子
壱朗太の長女。
狐耳と尻尾つきの浴衣姿、小麦色した長い髪の少女の姿をしています。
ほおずきを煎じた薬を一生懸命作っています。
・弐郎
壱朗太の長男。
浴衣姿、二足歩行する狐の姿をしています。
父を励ますべく、他の子ぎつねたちと枕元で舞ったり笛を吹いたりしています。
3 耳福池のほとり(夜)
透かしほおずきを手に夜の耳福池に立つと、鬼灯がふわりと光を放ち、あかい光が水に宿ります。光が消えるまでの束の間だけ、亡くなったひとと相まみえることが叶う──という噂がまことしやかに囁かれているようです。
登場NPCやXキャラクターについて
・他のマスターが担当していない登録NPCやXキャラ、阿瀬が担当している登録・未登録NPCであれば、不自然でなければ登場が可能です。
ただ、一日中ずっと一緒、というアクションは採用できない可能性があること、時間帯の指定はできないことをご了承ください。
・Xキャラクターをご希望の場合は、口調やPCさんとの関係性などのキャラクター設定をアクションにお書きください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、URLを書いて頂けましたら参照させていただきます。
暑い一日ではありますが、寝子島のみなさまも星幽塔のみなさまも、あやかしのみなさまも、どうぞ寝子島神社のほおずき市へお越しください。
みなさまのご参加、楽しみにお待ちしております。