膝の上に猫が丸まっている。
あたたかでやさしい日差しを受ける頭や頬よりも、ごろごろと喉を鳴らす猫の居る膝の方がやわらかくあたたかい。
遠く遠く、猫の鳴き声を聞いた気がして、
橘 千歳は黒い睫毛をもたげた。眠たげなまでに和んでいた漆黒の瞳が凛々しい色を取り戻す。それほどまでに、その猫の声は猛々しかった。
けれどその瞳は、青々とした松の根元で鞠と戯れる猫や、梅の枝につり下げられた靴下におさまり顔だけを覗かせる猫や、沓脱石に置いた羽釜の中に丸くなる猫を映した途端にふうわりと和む。どこまでも和む。
膝の上の猫が三角耳をぴくりと上げた。まん丸な目を咆哮じみた猫の声がする方へと向け、首を傾げ、次には素知らぬ顔でぷぷぷと首を振る。何事もなかったようにまた丸くなる。撫でろとばかりの一瞥を受け、千歳は淡く笑んだ。優しい手で猫の背を撫でる。
(ここは――)
来たことのない場所だけれど、知っている。
いつもスマートフォン画面越しに見ていたソーシャルゲームの世界で間違いない。
生真面目な風紀委員の彼女がうっかりのめりこんでしまったスマートフォンゲーム、『ぬっこ育て』。
日本家屋や洋館などの用意されたステージに猫の玩具や餌を置き、集まってくるねこたちを眺めたり名前をつけたり写真を撮ったりする、ひたすらにのんびりとしたゲーム。ではあるのだが、これが意外と楽しい。楽しい、のだけれど、――
にゃーご、と猫に似つかわしくない太い鳴き声が聞こえた。
「なっ……」
庭園の奥に見える竹林からのっそりと現れた鳴き声の主を目にするなり、千歳は息を呑む。樽のような丸々した真っ白な身体つき、立ち上がればニメートルに届くだろうでっかい手足。猫、というよりも虎か熊じみたその猫の名を、千歳は知っている。
「『まんぷくさん』……!」
鞠で遊ぶ猫や靴下に潜り込んだ猫を蹴散らし、真っ白な巨大猫『まんぷくさん』は千歳目がけて――千歳の足元にある餌の入った皿へ突進してくる。
「だめよ、これは皆のごはんなんだから……!」
その巨体にも怖じず、千歳は立ち上がった。『まんぷくさん』は、いつもとっておきの餌をひとりじめする『ぬっこ育て』の問題児。神魂の影響でゲームの世界に紛れ込んだ今こそ、『まんぷくさん』の魔の手ならぬ魔のお腹から猫たちを守ってやらなければ。
こんにちは。阿瀬 春と申します。
今回は、ねこをあつめるゲームの世界でのお話をお届けに上がりました。
ねこにご飯あげたり一緒になって遊んだり、のんびりまったりなシナリオとなっております。……一部ちょっと大暴れできたりもしますが。
ガイドには橘 千歳さんにご登場いただきました。ありがとうございます!
もしもご参加頂けます場合は、ガイドに関わらず、下記のご自由なステージをお選び頂きまして、ご自由にアクションをお書きください。
いくつか、ステージをご用意いたしました。
お好きな場所をおひとつお選びください。
1◇日本家屋
畳に縁側の日本家屋に、沓脱石の先には小さな池と石橋、松や梅の樹が植えられた如何にもな日本庭園。鞠とじゃれあう猫、唐草風呂敷に潜り込む猫、何故かあるキャットタワーに群がる猫たち。探せば猫の玩具になるようなものがあちこちに転がっているようです。猫のごはんは家屋内、床の間の袋戸棚の中や畳の下の隠し収納庫の中。
庭の奥からにゃーご、とデッカイ白猫(体長ニメートルほど)が現れます。ゲーム内で『まんぷくさん』と呼ばれる問題児です。
『まんぷくさん』は庭で遊ぶ猫たちを追い散らし、庭のあちこちに設置した猫の餌を次々に平らげてしまいます。餌が尽きれば、遊んでいた猫たちはどこかへいなくなってしまいます。
それを阻止するためには、無限とも思えるまんぷくさんのお腹をいっぱいにしてやり、遊び倒して疲れ果てさせ、眠らせる必要があります。
2◇魔女の洋館
煉瓦壁に蔦の這う不気味な洋館。あちこちの窓には猫の影がちらちら見えます。猫ではないお化けじみたナニカの姿もちらちら見えます。
手にした武器(刀でも銃でも、魔法の書物でも、何でもオッケーです)を使い、お化けたち(ゾンビやゴースト、魔女の館に居そうなナニカなら何でも)を蹴散らし、厨房で煮込まれそうになっていたり、書庫で本の中に閉じ籠められそうになっていたり、廊下でゴーストに追いかけられたりしている猫たちを助けてあげてください。
どたばたホラーアクション風の世界です。
3◇廃線列車
たんぽぽの咲き乱れる廃線になった駅舎には、錆びついた古い列車と、それから列車と同じくらいのデッカイ白猫。うららかな日差しの下、うつらうつらしたり時々欠伸をしたり。そこに居るのは穏やかな年寄り大猫『猫又さん』一匹のようです。
大猫と一緒にうつらうつらしたり、ただひたすらにのんびりしたり、愚痴ったり悲しい気持ちを癒したかったりぼうっとしたりしたい方は猫のお腹に埋まってみるのも手かもしれません。
4◇青空の花畑
晴れ渡った紺碧の青空の下には花が一面に広がっています。耳を澄ませば、あちこちの花の下からにゃーにゃーと鳴き声。
花をかき分けて見つければ大人しく後をついてくる猫たちと一緒に、お花畑の丘の上にある小さな東屋まで連れて行ってください。
その頃には周りはすっかり夜でしょうか。
星の流れる月夜の丘の上では小さな白猫がお茶会の準備をしています。煮干しやきゅうりや大根、人間用には花の匂いのする冷たいお茶。ひとくち含むと、昔の悲しかったことや寂しかったことをひとつ思い出してしまうようです。
5◇その他
雪原のかまくらの中で大量の土鍋の中に大量の猫をおさめる仕事に携わってみたり、たまにかまくらの中に設置したこたつの中で猫たちと丸まってみたりとか。
暗い森の中、にぼしを抱えて全力疾走しつつ後ろから襲い掛かってくる猫の群れからにぼしを死守する仕事をしてみたりとか。襲われて猫塗れになったりとか。
なんかこう、お好きなシチュエーションで猫を集めたり猫まみれになったり猫やGAの方といちゃいちゃしてください。
ご参加、エア猫を撫でつつお待ちしております。どなたさまもお気軽にどうぞー!