【体育祭】白黒つける、玉入れニャン！｜リアクション

【体育祭】白黒つける、玉入れニャン！

　実行委員のテントでは各々が受け持った仕事を着々とこなしている。
　その中の一人、千種智也には落ち着きがなかった。資料に目を落としているが、やたらと時間を気に掛ける。金色の髪に無造作に手を入れた。座っていても足が走っている状態で、その激しい貧乏揺すりに他の者の目がそれとなく集まる。
　智也は席を立った。思いの外、大きな音がした。ピンクの瞳が人目を逃れるかのように動く。
「デスクワークはここまでにして、校内の見回りにでも行くか」
　実行委員の証である腕章を指で弄りながら智也はテントを離れた。メールで呼び出した弟の修也の姿を探した。
「玉入れの参加者を募集中です。あなたも白猫や黒猫に成り切って、無邪気な一時を過ごしてみませんか」
　優菜は猫耳カチューシャを手に持って呼び掛ける。一目で智也は足を止めた。その場にとどまり、急に動き出した。
「俺が黒猫組で参加する」
「わかりました。黒い猫耳カチューシャですね」
「二つで頼む」
「他に参加者がいるのですね」
　ああ、と智也は短く答えて二つのカチューシャを受け取った。後ろ手に隠すように持つと再び行動を開始した。
「どこにいるんだ」
　早足で動き回る中、遂に見つけた。自身と似たような容姿で顔には若干の幼さが残る、弟の修也が人波に押し流されていた。対岸で安穏としてはいられない。智也は修也の腕に手を掛けて流れから引っ張り出した。
「スゲー、人の量なんでびっくりした」
「去年もこんな感じだ」
「なんで体育委員なんてやってるんだ？」
　修也は智也の腕章を見て言った。急に小難しい顔となり、躊躇うような表情から素っ気なく吐き捨てた。
「お前には関係ないだろ」
「……ふーん、ま、そうだな」
　修也は周囲に目を広げた。ジャージ姿の男女が活気に溢れた様子で行き交う。会話も弾んでいるようだった。
「この学校ってどうよ？」
「まあ、悪くはない。それよりも…お前、進路は決まったのか？」
「あー、考えてねぇわ。まだ中二だしな」
　短い受け答えで会話が続かない。智也は考え込むような表情となり、おもむろに話を切り出した。
「寝子高の体育祭はどうだ？　楽しめそうか」
「さっき来たばかりだけど、面白そうな感じはするな、うん」
　また話が途切れた。修也は智也から目を逸らし、興味の無さそうな顔で周囲を眺める。智也も同じような態度で、やるか、と呟いた。
「やらないと面白さはわからない」
　後ろ手に隠し持っていた黒い猫耳カチューシャを修也の胸に押し付けた。
「なんだよ、これ？」
「玉入れのルールだ。頭に付けろ。お前も参加して兄の勝利に貢献しろ」
「貢献って強引だな。それにどんなルールで猫耳なんだよ。おかしいだろ」
　不満たらたらで最後は諦めたように猫耳カチューシャを頭に付けた。座りが悪いのか、少し手で微調整を加える。
　目にした智也も頭に乗せた。無愛想な顔に愛らしい猫耳が生えている姿に修也は堪え切れずに噴き出した。
「クッ、や、やめろよ。兄貴が猫耳とか、チョー似合わねー」
「お前だって似合ってないからな」
「うるせー。つーか、似合ったら普通にイヤだろ、猫耳なんて」
　修也の言葉に智也は、そうだな、と僅かに表情を緩めた。
「ん、兄貴、笑った？」
「笑ってねぇよ」
　素っ気なく言うと智也は横を向いた。本当かなー、とわざとらしい声で修也が顔を近づけてくる。
　そこで反撃のシャッターが切られた。
「な、なに撮ってんだよ、兄貴」
「待ち受け画面にしてやるよ」
「そうかよ。じゃー、俺も」
　嫌がりながらも互いに写真を撮り合う。微笑ましい二人に周囲の人々の目が優しくなった。