カミキリ｜リアクション

カミキリ

○楽しいデートが……

　八十八旗信彦と上穗木千鶴はシーサイドタウンでのデートを楽しんでいた。
　爽やかで明るくて……ちょっとエッチだけど、優しい信彦くん。
（彼女がいるから、ぼくを好きなわけはない、と思っていたけれど。
　あのとき彼は、ガールフレンド（恋人）になってくれ、と言ってくれた）　
　信彦の感覚では、千鶴はガールフレンド（女友達）なのだが。
　そんなこととは知らない千鶴は隠し切れないウキウキ気分で注意力散漫になっていた。
　目を隠す長すぎる前髪と密かに自慢の超ロングの髪。
　さらに信彦くんラブな気持ちのせいで周囲の温度を上昇させている。
「星ヶ丘教会のお茶会、楽しかったよ。桃のソルベが美味しくて……信彦くんも来ればよかったのに」
　千鶴が幸せそうに信彦に話しかけた時、それは起こった。
　ジャキッ！
　前髪を引っ張られる感じと共に響いたその音。
「うぜえんだよ！」
　急に開けた視界に、何が起きたのかわからず千鶴は呆然と立ち尽くす。
　その間に今度は後ろ髪が引っ張られて。
　ジャキン！
「ち、ちーちゃんに何をするんだ！　……大丈夫かい！」
　慌てた信彦の声に我に返る。
　店のウィンドウに、隠していた瞳と無残に切られた前髪が映っているのを、千鶴は信じられない思いで見つめた。
　足元に目を落とせば、後ろ髪らしき髪の束も……
　覆面をかぶった誰かが逃げるのが視界の隅に映ったが、目の前には顔色を変えた信彦が自分の顔を覗き込んでいる。
「い……やだあ……！」
　今まで恥ずかしさや照れてしまうのをごまかして信彦くんの顔を見れていたのは前髪ごしにだったから。
　それが急に直接見えるようになってしまったのだ。
　ショックと恥ずかしさでパニックになった千鶴は、髪切り魔とは逆方向にその場から逃げ出した。

「あっ、ちーちゃん！」
　千鶴を追うべきか迷った信彦だが。紳士としてこのまま髪切り魔を野放しにしておけない、と決める。
「楽しい一時を邪魔してくれたばかりか、レディを泣かした罪は重いよ！」
　髪切り魔を追いかけて走り出した。
「とっ捕まえて警察に突き出してやろう！」
　残念ながら初動が遅れた上、髪切り魔の足は速く、あっという間に見失ってしまった。
　だが信彦は諦めない。目撃情報を求めて聞きこみをすることにした。
「覆面なんて目立つ格好をしてるんだ。情報は直ぐに得られそうだよね！」
（レディの髪を勝手に切ってしまうなんて、トンデモナイ事だよ！
　こんな暴挙を見過ごしては紳士の名が廃るってものさ）

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