仮のちぎりを　いかで結ばん｜リアクション

仮のちぎりを　いかで結ばん

「治るまでは、しばらくかかるだろうなぁ」
木々の合間から桜井ラッセルは空を見上げた。
ちぎりに関わった者たちは、精一杯の努力をした。不本意な結果に終わったこともあれば、思いも寄らぬ好転をしたこともある。これからどうしたらいいのか……それを考えるのは、俺の役目じゃない。
「俺は俺のできることを！」
カナリアに変じたラッセルは、下をおろおろと歩くちぎりに呼びかけた。
『おーい！　兄ちゃんの飛ぶところ、よく見てろよ！』
黄色い翼が空を舞うと、つられて森の野鳥も羽ばたいた。青い空に、鳥たちののシルエットが踊る。
「よーし！　俺も！　あとちぎりも！」
雨崎荒太郎はちぎりを抱え上げ、鳥たちと一緒にろっこん『コノオオゾラニー』の力で飛び上がる。羽を除去すれば水は止まる、ということを突き止めた結果、ちぎりは医療処置によって翼の羽毛をあらかた失った。傷はすぐに治癒のろっこんで癒えたが、新しい羽が生えてくるまで、左右の翼はみっともないまだらの状態だ。だが幸いにも、子ガラスを苦しめていた流れる水は消え失せた。荒太郎の腕の中ですかすかになった翼を懸命に動かして、ちぎりは飛ぶまねをする。
『そうだ、羽ばたけ！　がんばれ！　俺がお前の熱血大先生になってやるからな！』
「ちぎり、どこまでも飛んでいけー！」
すべての羽が生え変わるころ、カラスは森に帰れるだろう。アイタタ、アイタタという声真似が森を渡る。

「さあさあ！　改修よ！　急いでー！」
屋敷野梢の号令で、飼育小屋の一部の改修が進む。もちろん梢は号令と労働、両方をこなしていた。観察や実験とは勝手が違う作業に四苦八苦しながらも、神野美野梨も懸命に働く。二人が組み立てようとしているのは、ちぎりの水対策の受け皿と雨樋だった。
「あとは止まり木を用意してあげなくちゃね。あっ……それに錠！　ノート！　うーん、忙しいいい」
そういいながらも、梢はとびきりの笑顔を見せていた。

「いつかこれを使う時が、来るんだな」
八神修は新たな覚悟に己の身を置いていた。サバイバルゲームに使われるエアガンが部屋の片隅にしまわれている。ちぎりが旅立つ日が来たら、彼は用意していたこの銃で、人間の恐怖を教えるつもりだった。人に半端に馴れた野鳥が、どんな末路をたどるのか。修には容易に想像がついた。その日のために、修は心を鬼にする。
「お前が大切だから、やらなければいけないこともある。……すまん」

袋の中に手を突っ込み、まだ水のしたたる黒い羽を日に透かしながら邪衣士はぼやく。
「これのどれかに神魂が入ってるのかねぇ。それともまだ、あっちにくっついてるのか。いっそもう、全部煮て食っちまうかなぁ」
邪衣士は、腕を組み考え込む。神魂が飛び出てきたら取り込もうと考えていた彼だが、目論見は外れてしまった。
（まあ最終的には鳥ごと食えばいいかな）
独り言の裏で、また物騒なことを考える。実のところどの羽もはずれで、いずれはすべて影響を失ってしまうのだが、それはまだ彼の知らぬことであった。

「いただいたはいいけれど。まるでお土産コーナーだよ」
長南武治は目を細める。用務員室の壁には、飾られる記念品がまた増えた。
ちぎりと生徒の記念写真、絵心のある女生徒が描いたユーモラスなカラスの絵、そして、一枚、この前までここに住んでいたカラスの大きな羽。
ちぎりがみんなのもとから飛び立って行っても、ここに来ればいつでも会える。

このページにイラストを設定する

あとがき

担当マスター：清水るね
ファンレターはマスターページから！

ご参加ありがとうございました。

今回わたしがみなさんのアクションを見て、あらためて強く感じたのは、「プレイヤーは常にゲームマスターの上を行く」という真実です。当初わたしは、傷ついたこの鳥について向けられるのはそれなりの興味と哀れみが大半であろうと考えていました。私が保護する、僕も保護する、わーよかったね、で終わるでいいんじゃないかな、とたかをくくっていたのです。でも違いました。みなさんはゲームの中でも、命に対してどこまでも真摯だった。お前はこのゲームをなめているのかと、冷や水を浴びせられた気分でした。知恵を絞り、思考をぶつけ合うこの高度なゲームに参加しているみなさんのおかげで、わたしもまた目が覚め、救われたのです。ありがとうございます。

みなさんのアクションを最大限尊重しつつ、現実では問題になる鳥獣保護法に向き合ってリアクションを作成しました。実際に自治体に問い合わせた結果を反映したページもあります。現実と「らっかみ！」世界のバランスをとるため、わたしなりに努力させていただきましたが、宣言していただいたアクションを採用できなかったケースもあります。ご了承ください。詳細については個別コメントをご覧ください。

ご意見、ご感想などはコメントページにお寄せください。
それではまた、次のシナリオでお会いいたしましょう。

↑ページトップに戻る