【中間テスト】一夜漬け狂騒曲　～寝るなよ？　絶対寝るなよ？～｜リアクション

【中間テスト】一夜漬け狂騒曲　～寝るなよ？　絶対寝るなよ？～

【５】

「アハハ！　貫徹とは、また最終手段を使ってきたねぇ……では、その成果が少しでも現れるよう、協力しようじゃないか！！」
　焼きあがったアップルパイの香りにつられてやって来た、伊賀解理である。
　トレードマークのぶかぶか白衣の袖を、持て余し気味に振り回す手には、しっかりとピコピコハンマーが握られている。
「とりあえず、教える前に宣言しておこう！　寝たら、この知り合いから借り受けた、ピコハンでしばくぞと。言っておくが、殴られたらうるさいぞぉ。寝不足で皆テンションがおかしい方向に昂ぶるだろうから、すごく耳障りだぞぉ！　皆から恨まれたくなかったら、寝ないように！」
　紫苑灰磁が切り分けてくれたアップルパイを、フォークで突き刺しながら解理のテンションはすでにおかしい。

（全くこいつらは……。テストなんぞ、先生の話をよく聞いていれば、こんな事にならなかっただろうに……。まぁここの住民は、そんな人間ばかりだったな）
　解理とは対照的に、冷静沈着で余裕な様子を見せる灰磁。
「うん、さっくりして美味っ！　なかなかやるな、君」
　解理が手放しに、アップルパイの出来を誉めた。
「そう、良かった」
　物静かに応える灰磁だったが。
(この灰磁特製アップルパイの味はどうだぁ～！！？)
　やっぱ解理と、似たようなテンションだった。
　もっとも、灰磁はそれを表には出さす、あくまで伊達眼鏡をかけた、気弱な少年を演じているのだが。
(我が家庭能力は、世界一ィイイイ！)
　これが深夜テンションというやつなのだろうか。

「なんか、すっごい量の夜食だな。食べたいけど、流石に全部は太っちゃいそうだぜ」
「頭を使えば、太ったりはしないぞ！」
　テーブルに並んだ料理に、躊躇なく手を伸ばす解理を、羨望の眼差しで見ながら博美が苦笑する。
「あまり食いすぎると、眠くなるしな。セーブしないと」
　光子朗も適度なところで、勉強に戻る。
「あ、確かに……ちょっとノンビリしすぎたか、眠くなってきた……」
　大あくびをした祐樹の頭を、解理がピコっと叩いた。
「しっかりしろ、まだサッパリ勉強が進んでいないだろう」
「うう……すびばぜん」
「分かればいいのだ！」
　高圧的に祐樹に数学の練習問題を、２，３教えると、解理は大部屋を巡回しはじめた。
　お腹が一杯になって、舟を漕ぎ始めた者達が、次々ピコハンの餌食になる。
　何かもう、解理は勉強を教えるためというより、ピコハンをぶん回すために居る感じだ。
「そう言えば、あんたはおさんどんばかりで勉強しなくていいのか？」
　ふと光子朗が、灰磁に尋ねた。
「大丈夫だ問題ない」
　だそうである。