【風太くんの宇宙大戦争（２）】

　仙藤 蒼とその姉仙藤 紫が乗り込むスペースマシンは、言わずと知れた『希望戦士ニャンダム』です。
「いくわよ、お姉ちゃん！」
「ええ。援護は任せて」
　蒼の愛機は、アニメシリーズの記念すべき第一作で主役を張った堂々たる主人公機、ニャンダム！　盾を投げ捨て、武器はビームガンとレーザーソードに絞り火力と機動力に特化させると、蒼は敵陣の中へと踊り込み、ソードで切り裂き銃で撃ち抜きの大乱戦を展開します。
　その援護に回る紫は、妹の猪突猛進っぷりとは対照的に、重武装と重装甲を施したフルアーマーニャンダムを駆り、高機動ながら攻撃を受けるともろい蒼のニャンダムを、後方から全面的にバックアップしています。
「こいつら……形がないようにも見えるけど、中央のコアを壊せば動けなくなるみたい。お姉ちゃん、コアを狙って！」
　生粋のゲーマー、蒼は戦闘の真っ最中にも関わらず敵を観察し、きっちりと弱点を導き出します。
　実のところ、デス・カーン帝国の尖兵とも言うべきこの妙ちきりんな宇宙生物たちは、彼女のウソによって現れたようなものでして、ちょっぴり責任感……を感じているかどうかはさておき、蒼は景気よくズビューンとビームガンを放ち赤く光るコアを撃ち抜いていきます。ノリはまさしくシューティングゲームです。
「コアね、分かったわ……待って。あれは何？　新手？」
　と、紫が背中のキャノン砲でどかんと不定形生物をぶっ飛ばしたところで。
　うねうねにゅるにゅる、にゅるにゅるるん！
「いたいた、かわいい女の子はっけーん！　それも姉妹丼だなんて、これはもー捗りますなー♪」
「「！？」」
　デス・カーン帝国の幹部、宇宙触手生命体こと朝野 未沙。仙道姉妹めがけて襲来！　手足が無数のぬれぬれ触手に変わった生身の未沙本人という、宇宙には合ってるんだか合ってないんだか良く分かんない姿で襲いかかります。
「触手で女の子を蹂躙するって夢が、こんな形で正夢になるなんて！　それじゃ遠慮なく、イッタダッキマース♪」
「い、いやーーーっ！？」
　ニャンダムににゅるりと絡みつく触手！　なんだかニャンダムが触手責めされてるみたいなかなり上級者向けの絵面になっておりますけれど、もちろん未沙の狙いは中身です。にゅるるんとニャンダムの手足を絡め取った触手が装甲の上を這いまわり、やがてコクピットをこじ開けようと取りついて……。
「い、妹に卑猥なことはさせないわ！」
　お姉ちゃん、紫のフルアーマーニャンダムが手にしたバズーカ砲をぶっぱなし、ちゅどーん！　榴弾は未沙へと直撃し、派手な爆炎が宇宙にきらめきます。
「た、助かったわお姉ちゃん……うええ、私のニャンダムがなんか粘液だらけに～」
「……やったの！？」
　未沙はあえなくコッパみじん、宇宙の藻屑に……かと思いきや。
　蒼と紫がごくりとつばを飲み込み見守る中、爆発の直後に舞い上がったもうもうたる煙が晴れたところには、
「ひどいことするなぁ、もう」
「でもさ、それでこそ堕としがいがあるってもんだよねー」
「「……ふ、増えたーーー！？」」
　変わらず触手ヌルヌルな未沙が、なぜだかふたり！
「良く考えたら、身体がひとつじゃ色んな女の子を堪能できないので、分裂してみました」
「あ、攻撃したらもっと増えるよ？　だからおとなしく、あたしに身を任せなさ～い！　ほらほら、きもちよーくしてあげるから♪」
「「いやああああああ！？」」
　宇宙触手生物、増殖開始！



　奈良橋 博美の乗り込んだ宇宙船は、なかなかにユニークです。
「嘘が現実になるってことは……宇宙の侵略者のＰＣに爆弾が発生するっていう、一昔前のギャグ映画が実現する？」
　などと不穏なことを口走りつつ、トンビ型のなんとも勇壮なフォルムの宇宙船を急加速させ、不定形宇宙生物へ体当たり。どかんとふっ飛ばされた敵は、なぜだか、パッ！　宇宙巨大油揚げに変わってしまったではありませんか。
「ま、今回は正々堂々と戦う方向で頑張ってみるか」
　トンビ型宇宙船はヒットアンドアウェイで敵へびしばしと体当たりをかまし、そのたび生まれる油揚げをぱくり、ぱくんと食べて燃料へ変えながら戦い続けます。シンプルかつ継戦能力に優れた、これが意外と強力なスペースマシンでありました。
　博美はそうして次々に敵を撃破しながらも、周りの状況を把握する努力も怠りません。
「おっ？　友軍が奮闘してるな。よし、ここは共同戦線といくか！」
　どぎゅんと博美が向かう先では、金剛 恵がまさしく丁々発止の大活躍を繰り広げております。
「私の名前は、桜乃 春香！　またの名を、『シンギュラルプリンセスフローラ・はるか』！！」
　はるか、だそうです。恵でなく。
　そう、恵とは世を忍ぶ仮の姿。その真の姿とは、新進気鋭の女性アイドル、桜乃 春香だったのです！　……いや逆かな？
「私は発達した科学によって生まれた、魔法少女！　無重力用のアストライアーフォームがあれば、宇宙戦だってこなしてみせるわ！」
　ともかくろっこんで女の子にきゅるるんぴかーんと変身を果たしたはるかこと恵は、宇宙魔法少女として星の海を駆け抜けながらも、内心ちょっぴり頭を悩ませていたりしました。
「うん、このアストライアーフォームはなかなかの出来だね。これは後で劇場用ムービーででも使ってもらうとして……ええと、攻撃用の技はどうしよう。真空の宇宙で炎を出すのはちょっと説得力がないし、光線銃の類でも持ってみる？　いやいや、それじゃさすがに魔法少女とはいえないし……いや！　そうだ、これだ！」
　しばし敵を引きつけながら悩んだ末に、くるりと回転させつつ長いステッキを取り出します。いかにも魔法少女～ってカンジのファンシーな飾りに、ちょっぴりのＳＦ要素を加えたカッコイイヤツです。
「『アストライアーフォームのアストライアーステッキからは、ビームが出せる！』これなら……いっけぇーーーっ！」
　言うなりステッキの先端から照射される、まばゆく輝くビィィィーーッム！！　光線はずどばばばばっと何体もの敵を貫いて、宇宙を切り裂きながら伸びていきました。
「へぇ、やるじゃん！　今から敵の指揮官を仕留めて、指揮系統を寸断してやろうと思ってるんだ。一緒にやらないか？」
「あっ、味方の宇宙船？　ええ、もちろんよ！」
　しゅいーんと飛んできたトンビ型宇宙船からの通信は、頼りになる味方、博美からの共闘要請でした。思考は男の子のそれながら、対外的にはカンペキなアイドルかつ魔法少女な恵はすぐにも自分を切り替えて、博美との共同作戦に乗り出します。
　なにしろ、相手は思いのほか強敵のようなのです。
「さーて、そうカンタンに」
「イクかなぁ～？」
「男の子？　女の子？　中性的な魅力があるよね、弄りがいがありそう♪」
「おとなしく、あたしのモノになっちゃいなさ～いっ！」
　立ちはだかるのは、４人の未沙。増えすぎ！　でもまだまだいます！
　恵とコクピットの中の博美は顔を見合わせて、こくりとひとつうなずくと、うねにゅるな触手へと果敢に立ち向かってゆくのでありました……地球をめぐる宇宙大戦争は、いよいよ佳境へ！