【お花見】しづ心なく花の散るらむ｜リアクション

【お花見】しづ心なく花の散るらむ

　元・女子中学生のパワーは尽きることがない。
「すごかったね！　DOG110！」
「でも最後に出てきた子たちもすごかったよ！」
「あれ誰だったのかな！　歌うまかった～☆」
「えーでもあの年上の綺麗な人、見たことある気がするー」
「誰だっけ？」
「うーんと……ところでさ、屋台でラーメン食べて帰らない？」
「お前まだ食べんのかよ」
「いいモン！　じゃあ私だけで行くモン！」
「待て待てあたしも行かないとは言ってない」
「桜はどうするー？」
「いやまあ食べるけどね……」
　でもさあ、と水上桜は半ば呆れ口調で言った。
「みんなもうちょっと桜見たらどうなの？　お花見でしょう？　食べて飲んでステージ見てキャーキャー言ってまた食べて……色気と食い気ばっかしで」
「えー、なんで？　いいじゃん」
「いやもうちょっと春を尊重しない？　って言いたいわけで」
「また桜が難しいこと言い出した」
「おい『また』て何だ『また』て！　あのね、私が春にこだわりがあるのにも理由があるわけ、春は桜の季節！　そう、つまりこの私の季節だから！」
「１月生まれなのに、咲くのが遅いよ！」
「うるさーい！」
　ここで一同、どっと笑う。
　こんな日々がもうすぐ終わりだなんて信じられない――桜は思った。
　こんな平凡な日々が。
　高校でもこんな風に、新しい友達をまじえて普通にすごせたらいいな。
　そう。『普通』だ。『フツウ』じゃない。断じて。
　心の中で桜は溜息をついた。
　これまでの人生がくるっと裏返ったような気持ちだ。もれいびになって以来、否応なしにフツウな出来事に巻き込まれ、高校受験の間際にまで容赦なくフツウが襲い掛かるようになった。
　おかげで桜は今では、すっかり『フツウ嫌い』になってしまっている。
　普通じゃないのに、「フツウ」とカタカナで書いてごまかすな！
　それが、彼女の偽らざる心境だ。
　……とか考えているとき、もうラーメンの行列は彼女たち元・女子中学生グループの番になっていた。
「あたしラーメン一つ、大盛りで！」
「大盛りて！　さっきあんだけ食べて大盛りて！」
「いーじゃんお腹空いたんだよ～。ダイエット？　明日から明日からー」
「じゃあ私はチャーシューメン大盛り」
「お前も大盛りじゃないかよー！　しかもチャーシューメンと来たか！」
「さっき最前列で一生懸命歌ったからカロリー消費してるの！　♪あなたとともにいきてゆくー」
「あーうるさいうるさい、とっとと私に代わりなさい！　私は味噌ラーメン大盛りね！　桜は？」
「え……私……？　ラーメン…………大盛り」