桜目指して！　入学試験｜リアクション

桜目指して！　入学試験

☆ちょっと緊張……

　貴家衿花は、母からもらったお守りを握りしめて試験会場である寝子高に入った。
（成績は問題なくクリア出来るはずだけど、初めての受験なのでやっぱりちょっと緊張するわね）
　時間はまだ十分にある。
（春にはここに通うのだし、せっかくだから校舎とかをじっくり見ておこう）
　辺りを見回すと、一際背の高い女生徒が目に付いた。
（１８０くらいあるんじゃないかしら）
　寝子高の制服だから先輩だろう。１５３ｃｍの衿花からすると、相当大きく見える。

　その女生徒、羽生碧南は数日前入試補佐のバイトの件を問い合わせて、生徒でもできるかどうかを聞いていた。
（春の新作乙女ゲーム（当然予約特典付き）で欲しいのが目白押しだし、バレンタインデー用にニャロルチョコの詰め合わせを買うから物入りだし）
　バイトを受けた結果受験生の案内役を任せられたのは、高身長で目立つだろうと判断されたためだった。
　１８０ｃｍは女子バスケ部員としては申し分のない身長だし、そのおかげで活躍もできている。
　けれど、女子としてはやはり色々と悩みもあるわけで……
　それはともかく、今は受験生たちの視線を気にしている場合ではない。
「普通科受験の方、こちらの階段から２階に昇ってください！」
　案内しながら、中学校の制服姿の受験生たちの様子を見ると、明らかに緊張の面持ちをしている。
　ちょうど１年前の碧南も緊張して門をくぐったことを思い出した。
（あの日は答案用紙に何を書いたかちっとも覚えてなかったな……）
　あの時は、自宅が火事で焼けてしまう災厄に見舞われるなど想像もできず、ただ受験のことでいっぱいいっぱいだった。
　ここにいる受験生たちも、不安なんだろうな……受験を扱った乙女ゲームのいろんなシーンも思い浮かぶ。
　碧南は、近くにいたポニーテールの眼鏡の少女に心の中でエールを送った。
（……ほら、ここまできたらもう、正面突破で行くしかないよ）
　
　次にやってきた受験生たちに目をやった碧南は、一人の少女の帽子に目が点になった。
（犬耳帽子？　ゲームの中にもああいうのは出てこないなあ……外人さんかな、個性的な子なんだろうな）
　ただでさえ金髪で目立つだろうに、それを隠す意図ではなさそうだ。
（でも覚えてもらいやすくて、再会したとき、『君はあの時の……』って感じになっていいよね）
　乙女ゲームのシチュエーションにありそうだ。
　背の高さで覚えてもらうのとは大分違う。ファッションは本人の意思なのだから。

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