【バレンタイン】学生達のValentine's Day!｜リアクション

【バレンタイン】学生達のValentine's Day!

●輝ける２つの星

　桜庭円は放課後の少し人気のなくなった昇降口で、こっそり下駄箱の影に隠れていた。
（……来るかな？　いるかな？）
　そっと先を覗き込むと、そこには神木直樹の背中。
（いた！）
　トクン！　と円の心臓が跳ね上がる。静まれ静まれと円は小さく深呼吸した。

　世間が浮き立つバレンタインが近付いてきた時、円は自問自答した。
（誰かに渡したい？）
　その時浮かんできたのは直樹の優しげな顔。それ以外はちっとも考えられず。
（えーと……ということは……ボクは直樹くんを……好き？）
　最後の単語に円は１人ボッと赤くなる。自覚した恋心にいたたまれなさはあったが、円は勇気を出してバレンタイン前日にチョコを作ったのだ。何度も味見をして。飼い猫のにゃーくんに「チョコは舐めたらダメだよ」と注意をしたりして。
　こうして出来たのは星と猫型のチョコ。星は直樹を、猫はにゃーくんをイメージして作ったものだ。
　そして今日、学校にいる間に直樹にメールで『一緒に帰ろー？』と送ってアポ取り。内心、
（断られませんよーに！）
と願いながら。
　分かってるかな？　直樹くん。
　バレンタインに一緒に帰ろうって言ってるんだよ？

　直樹の背中を確認した円はゆっくりと彼に近付き、耳元に小声で囁いた。
「直樹くん、今日チョコ貰えたー？」
「……うわぁっ！」
　耳を押さえ、びっくりまなこで直樹が振り返る。その慌てぶりに笑っちゃいけないと思いながらも円はついつい忍び笑いをしてしまう。
「ごめんごめん、そんなに驚くとは思ってなくて……よし、帰ろう！」
　片目をつぶり円は軽い調子で言うと、直樹の腕を取った。

「……チョコなんて貰ってないよ。そもそも僕そんなに目立たないし」
　２人で並んで歩きながら、直樹が今日の事を円に報告する。それを普通の顔をして聞きながら、円は内心胸を撫で下ろしていた。……よかった。
　そうなるともうタイミングだけだ。円は会話の流れを見ながら、さりげない様子でカバンからチョコを取り出した。
「これ。ボクから」
　シンプルな包装に、赤いリボンでラッピングされた箱。あまり直樹が重く受け止めないようにと考えて用意したのに、いざ渡す自分の顔が熱くなるのがどうしても抑えられない。円は慌てて言葉を続けた。
「いや、中はね、星と猫の形のチョコなんだよ。ほら、直樹くん星好きだし」
　言えば言うほど声がうわずる。自分でも軽くパニクってるのが分かった。そんな円を直樹はいつもの穏やかな様子で見ている。
「にゃーくんと、星をモチーフにチョコレート作ってみたのさ！」
　ちょっとおどけて言ってみたが、恐らくもう自分の顔は真っ赤だろう。しかしこの差し出したチョコを引っ込める訳にもいかない。うわあどうしようと思っていると、チョコの箱にそっと直樹の両手が添えられた。
「円ちゃん、ありがとう。ありがたく貰うね」
　そう言って微笑む直樹の顔はいつものもので。円もようやく自分の調子を取り戻した。
「……どういたしまして！」
　チョコの箱を持ちながら、お互いふふと微笑んだ。

「えーとね、でも味に自信がないからね……」
　そう言って円は直樹に、ちょっと開けてみてと促した。直樹がゴソゴソとチョコの包みを開けてみると、そこには細長い紙が２枚。
「これは……チケット？」
　首を傾げる直樹に円はうんと頷いた。
「プラネタリウムのチケットも一緒に入れてみたんだ。今度一緒に行こうよ」
「プラネタリウムか！　いいね」
　直樹の顔が嬉しそうに輝く。その輝きを円は幸せそうに見つめていた。

　いつか君は言ってたよね。
　『星空の中ではボクはちっぽけすぎて、自分が何だかも忘れ掛けた』って。
　でも、星空の中の、君は輝く星。
　その輝きはちっともちっぽけじゃないし、眩しいくらいに輝いてる。
　そしてボクもその隣で輝いていけたらって思うんだ。

　黙ってしまった円に直樹は不思議に思ったのか、
「……円ちゃん？」
と声をかける。円はちょっと目を閉じてから、悪戯っぽく微笑んだ。

「でも直樹くんはモテそうだし、お相手とか先に居たりしないー？」
「え、え？　い、いる訳ないじゃん！」
　慌てる直樹に円は「ほんと～？」と覗き込む。直樹が「もー！」と片手を挙げてぷんすか怒り出すと、「ごめんごめん！」と笑いながら逃げ出し、そしてくるりと振り向いた。
「―――プラネタリウム、楽しみにしてるからね！」
　うんと頷く直樹に、円はとびきりの笑顔を見せた。

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