【終業式】始めようと思ったときが始まり｜リアクション

【終業式】始めようと思ったときが始まり

【通知表のある風景〔一年三組＆四組編〕】

　同じ頃、ほかの一年生の教室でも、通知表にまつわる悲喜こもごものドラマが繰り広げられていた。
　といっても、そんな大層な話ではない。

　たとえば、一年三組では天馬ひびきが今まさに担任の白沢絢子から通知表の手渡しを受けようとしていた。
「はい。それじゃあ次は――天馬ひびきさん」
「……？　あ、はーい！」
　配布されたプリントに落書きをして遊んでいたひびきは名前を呼ばれたことに気づくと、元気良く立ち上がって教壇に向かった。
「あらあら。天馬さんは今日も元気いっぱいね」
　絢子は陽気なひびきに対し、柔和に微笑みつつ、恒例の一言コメントを述べる。
「天馬さんは体育は優秀ね。それから調理実習もとても頑張っていたと思います。あとは……数学や理科のお勉強ももう少し頑張りましょうね。『１』が続くと単位不足で留年よ？」
「はぁい♪」
　にっこり笑って怖いことを言う絢子から、にっこり笑って通知表を受け取り、ひびきは席に戻る。
　そして、ひびきは受け取った通知表を見て、「にゃはぁ♪」と笑いつつ、その余白に落書きを開始する。
（数字の『１』って煙突に似てるよね、『３』はちょっと線を書き足せば――雪だるまさん！）
「……って、ひびきちゃんっ、何描いてるの！？」
「ん？　何って――煙突と雪だるまさんだよ？」
「……いや、そういう意味じゃなくて」
「んん？」
　苦笑を隠せない級友に対し、ひびきは何を言っているのかわからず、とりあえず「にゃは」と笑って、また落書きの続きに勤しむのであった。

　そんな小学生もかくやという光景が広がる三組の教室をよそに、
「はい。次は夏朝ちゃん」
「はい」
　四組ではごく普通に恵御納夏朝が担任の久保田美和から通知表を受け取ろうとしていた。
「うん。全体的によく頑張ってると思うわ。二学期の中間の生物が赤点だったけど、ちゃんと追試をパスしてるから大丈夫！　……でも、大学入試で解答の記入ずれはやっちゃダメよ？」
「あ、は、はい」
　小声で言って、パチンとウインクする美和に、夏朝は微苦笑を浮かべる。
（……二学期の中間は色々と事情があったんだけど、先生に言うようなことじゃないし、ね）
　ひとまずは評定「１」を回避できたことを素直に喜ぶべきだろう。
（気持ちを切り替えて、次は大掃除を頑張らなきゃ……！）
　夏朝はぐっと拳を握りしめて、丁寧に通知表を鞄の中に入れるのだった。