「いやー話には聞いてたけど、この島はほんと猫がたくさんいるなあ」
猫好き写真家、山野辺 耕一郎が気まぐれで寝子島を訪れたのは、梅雨の中休みのとあるフツウの日だった。
「にゃ〜」
「はは、可愛いなあ」
パシャリ。シーサイドタウンを行く耕一郎は、ファインダー越しに見かけた猫を残らず写真に収めていく。
「お、あっちにも」
屋根の上を軽快に伝う、シャープな顔つきの猫をカメラで追う。その背中を一枚失敬すると、研ぎ澄まされた緑の目が耕一郎を睨みつけた。思わずシャッターを切る手が止まる。
「なんだ……あの猫」
屋根の向こうへ消えた猫に、圧倒される耕一郎だった。
そのシャープな猫とは、
テオドロス・バルツァ。
「全く、許可なく写真に撮りやがって」
気分が悪い。屋根を歩きながらそう吐き捨てる。
「たまに晴れた日に散歩で遠出すればこれだよ」
やれやれ、と落胆する気持ちを吹き飛ばすように、駆け足で寝子島シーサイドタウン駅へとやって来た。
「ん、なんだ?」
駅の中が騒然としている。電車の動き出す気配がなかった。
『た……だいま……えー……通信機器のトラブル……転を見合わ……す』
どうやら問題が発生したらしい。
「嫌な予感しかしねぇな」
ナニカを感じ取ったテオは、早々に駅を去る。
「もしもし……もしもし?」
「なんでー? メールが送れなーい」
「なんかネットの調子悪いな」
街全体がやっかいなことになっている。テオとすれ違う、電話していた営業マン、メールしていた女子高生、ねこったーを巡回していた大学生、全員の通信機器が……
(イカれちまってる)
テオはため息を一つつく。また、神魂か。まずは問題の原因を突き止めないといけない。
「はぁ!?」
テオの行く数十メートル先を、大声で電話する見覚えのある女性がいた。寝子島高校の理事、
桜栄 あずさ。体全体から発せられる自信とフェロモン、そして怒声は、周りを二歩退かせるだけの迫力があった。
「校長……『飼っている猫が脱走したから、生徒総動員で街を探す』なんて、あなた本気で言っているの? それって職権乱用、さすがに保護者が黙っていないわよ。ちょっと冷静になって校長。大丈夫よ、子猫だからそんなに遠くへは行っていないわ。きっとまだ校内にいるわよ」
何やらモメているようだが、テオには関係のないことだ。気にせずあずさの横を通り過ぎようと決める。
(う……鼻が曲がりそうだぜ)
強烈な香水のにおいが漂うくらいの距離にまで近づいたとき、変化があった。
「……せめて教員全員でって……授業どうすんのよ! ……え? 何? ちょっと電波遠いわよ……おーい校長……おーい、ハゲ、ハゲ応答しろ」
彼女の携帯電波も切れてしまったようだ。
「もう、なんなのよ……」
苛立っているところに、テオと目が合った。途端に表情を一変させ、にんまりと優しい笑みを浮かべる。
「あら、可愛い猫さん、こんにちは」
携帯を持ってない方の指を前後に揺らして、テオに愛想よく挨拶する。テオは目を逸らし素っ気なく対応する。
……その直後、
「あ、校長。よかった切れてなかったのね。で、話の続きだけど」
回線が復旧する。見れば、周りで困っていた人たちの通信状態も元に戻ったようだ。
再び怒りに任せるあずさを見上げながら、テオは確信していた。
(原因は俺だったのか……確かに今、俺は感じた。自分の中から、ナニカ嫌なものが去っていくのを)
神魂の気配。猫好きのカメラマン、通信状態の異常、そして、「こんにちは」……。
記憶を整理し、全てを悟ったテオは、迷いなく世界に猫パンチする。
デスクトップにはいつも猫写真フォルダ。どうも、小西秀昭です!
今回は、寝子島全体の電波状況が悪くなってしまう、音信不通の物語です。元凶は、冒頭に登場した猫好き写真家にあります。
<猫好き写真家・山野辺 耕一郎>
【発動条件】寝子島内で、自分のカメラで、猫を写真に撮る。
【能力】撮られた猫が妨害電波を発する。妨害の範囲は数十〜数百メートル(個体差あり)。
ろっこんを解除する方法は一つ。猫の目を見ながら「こんにちは」と明るく挨拶する。これで“不通”猫はフツウ猫に戻ります。
全ての猫の発する妨害電波を取り除くことが、今回の目的になります。
<妨害電波を発する“不通”猫たち>
耕一郎に写真を撮られ、妨害電波を発している猫たちはこちら(寝子島マップもあわせてご参照ください)。
★港の野良猫たち
寝子島漁港(マップM-6近辺)で生活する、打ち上げられた魚で育った猫たち。20匹前後はいると思われます。野良なのであまりおもちゃにはじゃれず、食べ物は新鮮な魚じゃないと食いつきません。港だけでなく、船内や市場内を住処としているようです。
★ボン太
旧市街の参道商店街(マップk-3)を縄張りとするボス猫。民家の軒上で大あくびしているところを激写されました。でっぷりとした体で貫禄があり、意外とすばしっこい。悪知恵も働くので、最もやっかいかもしれません。食べ物ならばなんでも好物、さらにキラキラしたものが好き。
★白のユキ・黒のこしあん・ブチのイーピン
寝子島高校の校長室で飼われている3匹の子猫。隙間から脱走し学校外に出てみたはいいものの、知らない人に写真を撮られるわ、車はビュンビュン怖いわで、結局戻ってきました。今も3匹一緒に校内のどこかをさまよっていると思われます。人馴れしていて、人のたくさんいるところが好き。見つけたら寂しがらないよう優しく接してあげてください。
★星ヶ丘の猫たち
資産家の外飼いの猫が多く、グルメ。高級なおもちゃや食べ物にしか反応しない。また高いところの好きな猫が多く、屋敷の屋根の上など、高所をくまなく探す必要があります。
<アクション>
テオによって、寝子島の猫と参加者の皆様だけが別の世界へ送られました。テオから説明を受けた直後からの、アクションスタートとなります。ガイド中にもあるように、テオ自身はもう妨害電波を解除しています。
猫に付いた妨害電波によって、通話、メール、ネットといった電波を送受信する行動は不可能です。携帯のアラーム機能とかメモ帳とか、独立した機能は使えます。行動制限といえばそのくらいで、あとは自由です。転移された世界ですし。
ただ、連絡の取り合いは難しいので、アクションは最初から何人かで固まっているGAが推奨かもしれません。前項<妨害電波を発する猫たち>のどれかを担当するでも、複数を担当するでも、なんでも構いません。もしかしたら他の場所にも“不通”猫はいるかもしれないので、らっかみプレイヤーの皆様にとっては言わずもがなかもしれませんが、枠にとらわれないアクションもお待ちしています。ろっこんも思う存分使っちゃいましょう!