ジメーッとした6月の半ば。空には雲がたちこめ、雨が降ったり止んだり、薄暗いどんよりな一日の始まりだった。
湿度の高い日だというのに、いや、湿度が高いからだろうか、
千鳥 雅人はアホ毛をピンと立たせながら、通学路を急ぐ。
異変に気づいたのは、東門をくぐってすぐだった。
北校舎の外壁、人の目の届きにくいところに、
ナニカがウネッと張り付いている。
「?」
雅人の“アンテナ”が反応する。得体の知れないナニカに興味津々、期待値の高まりがろっこん「エモーションアンテナ」を導いた。
校舎の1階から3階にかけて張り付くそれは、まるで蟬の脱け殻のようにじっとしているが、質感は完全に異なっている。ヌメッとした黄土色の表面。ささやかな風が吹くと、ビクッと表面の一部が形状を変えた。
「おー……」
雅人はそれを下から上へ、ジーッと舐めるように見た。黒の斑点模様も相まって、まるで気色の悪い食感が口の中を転がる感覚を抱きながら。
「!!」
てっぺんでうごめく二つの
ツノを目撃したとき、雅人のアホ毛が、クエスチョンからエクスクラメーションへと形を変える。
北校舎に張り付く巨大なそれは……
「ナメクジですか?」
実験室の
五十嵐 尚輝は抑揚のない声で言った。
「……なるほど最近は湿度が高いですからね、ナメクジが大量発生してもおかしくないでしょう」
コーヒーの入ったビーカーを置くと、湿気で束になった髪をシャカシャカほぐす。
「撃退法? ……そうですね、一番有効なのは粉類を振りかけることでしょう。塩化ナトリウムがいいですね。そうです、食塩のことです。もちろん塩化カルシウムでも構いません。コショウや片栗粉でも。僕がコーヒー豆を切らしたときに使用する、インスタントコーヒーの粉末でも大丈夫でしょう」
そう言いながら、再びビーカーを手にする。
「しかし大量のナメクジとなると、相応の粉が必要になるでしょう。塩化ナトリウムを大量に生成したいのなら……海水から抽出するのがいいでしょうね」
ビーカーに口をつけた尚輝は、グイッと腕を引っ張られる。白衣に円く黒のシミができた。
「ちょ、どうしたのですか。いきなり。僕をどこへ連れて行く気ですか?」
ドタバタと廊下を走る音、そして。
「チチチ……」
小鳥のさえずりが少し遅れて、人のいない実験室に届いた。
梅雨の風物詩、ジメっとウネっと気色の悪いシナリオの始まりです。千鳥 雅人さん、こんなシナリオガイドに登場させてしまい申し訳ありません。そしてありがとうございました!
というわけで今回は、大きなナメクジが現れてさあ大変、というお話です。一般の人に知られる前に、参加者の皆さんには巨大ナメクジをなんとかしていただき、寝子島のフツウを死守していただきます。
【巨大ナメクジ】
神魂の影響により建物3階くらいの高さにまで巨大化したナメクジ。物理的攻撃はほとんどうけつけない。最も有効な手段は塩を振りかけること。浸透圧を利用した科学的攻撃により、ナメクジを縮ませることが対処法となります。全てのナメクジを通常サイズにまで縮め、野へ還したら目的達成です。
現在、巨大ナメクジは寝子島高校裏の九夜山、落神神社や猫鳴館付近を通り、街へ向けて彼らなりに爆走中(寝子島マップ上の、F-7からF-9にかけて)。
すでに寝子島高校へ侵入し校舎の壁にへばりついているのが1匹、猫鳴館に1匹、九夜山を下りているのが2匹、少なくとも4匹の存在が認められています。他にもいる可能性はあります。彼らが直接危害を加えてくることはありませんが、街に出没されてはやっかいなので、早めに目的を達成させましょう。
【アクション】
アクションのパターンは大まかに以下に分類されると思われます。複数のアクションを担っても問題ありませんが、全てが描写されるとは限りませんので、ご了承ください。寝子高生以外の方の参加も大歓迎ですが、事態を知るまでのきっかけもアクションで提示いただけるとありがたいです(提示がない場合、こちらのほうで好きなように調理させていただきます!)。
ナメクジに粉類をひたすらかける
・粉は塩、砂糖、小麦粉、コショウ、なんでもOKです。
・粉を無駄なく振りかけて、できるだけ早く全てのナメクジを小さくしましょう。
寝子ヶ浜海岸で海水から塩を採る
・事態を知った誰かが五十嵐先生を無理やり寝子ヶ浜海岸へ連れ出したので、寝子高生が制服姿でウロウロしていても怪しまれることはありません。課外授業を称して安心して塩を採ることができます。
・五十嵐先生自身は、ナメクジが大量発生したため、塩を採っていると思っています。巨大ナメクジが出没した、というフツウではない事態を悟られないように注意してください。
・海水から塩を採る一般的な方法は、火にかけて結晶化するだけ。食用にするわけでもないので、ろ過などの作業も不要といえるでしょう。
・早く大量に生産することを心がけてください。
採れた塩を寝子島高校や九夜山へ運ぶ
・できるだけたくさんの塩を運べるように工夫しましょう。
・海水自体を運んでナメクジにかけても効果はあるようですが、重い上に流体なのであまりオススメできません。ろっこんを使用するなら、また別の話ですが……。
上記に分類されないアクションも、無理のない限りで物語に食い込ませていきます。ええ、食い込ませますとも。
とにかく、ナメクジを倒すのではなく、通常サイズまで縮めるシナリオであることを念頭にお願いいたします。ある程度切羽詰まった感じで、ある程度楽しむ感じで、ある程度気持ちが悪くなる感じで、シナリオは進行していこうと思います。それではご参加お待ちしています! 小西秀昭でしたっ。