ぱちり。
茜色の光が弾けて。
猫は、寝子島を擁するこの世界へと現れました。
はじめに彼を見つけたのは、
鈴原 天音でありました。
「あっ! 猫ちゃん発見、なんだよー♪」
自他ともに認める、無類の猫好き! である天音。さっそくてててっと元気良く駆け寄りますと、ぴょこんっと屈んで覗き込みます。
それは、このあたりでは見かけたことの無い、何だかちょっぴり不思議な猫でした。
急に近寄ってきた天音に慌てるでもなく、静かに彼女を見上げる、青く澄んだ瞳。
ふさふさな毛並みは何故だか、
右半分が白で、
左半分が黒。絵の具で二色に塗り分けたかのように、綺麗にマップタツです。
きらきらと輝く金色の首輪に取り付けられたペンダントには、大きくて綺麗な、
茜色の宝石がはめ込まれています。
何やらペンダントに記されている文字は、天音が見たことも無い言葉で書かれておりましたけれど……それを目にすると、理由は分からないながら、不思議と天音には、そこに何が書かれているのかが理解できました。
「……
アルク? 猫ちゃん、アルクって名前なんだ?」
にゃおん。話しかけた天音へ答えるかのように、猫がひとつ鳴き声を上げた……その時でした。
ぱち、ぱちぱち。ぱちり!
茜色の光が弾けて。
視界が、真っ白……になったかと思いましたら。
「こ……こ……」
まぶたを開けた次の瞬間、天音はぽかーんと口を開けて、その光景に見入ってしまいました。
「ここ、どこなんだよー!?」
見慣れた寝子島の風景からは一変して、ビビッドでカラフルな色があちこちに散りばめられた、どこか古めかしくも美しい街並み。
いずれも浮かれて楽しそうな、道行くおびただしい数の人々……シルクのような滑らかな布の服を纏った彼らは、明らかに日本人では無いようです。
目の前には木造の船着場と、揺らめく透明な海。見上げればどこまでも蒼い空、浮かぶ大きな白い入道雲。
悠々と空を走るのは……幾つもの、
羽の生えた空飛ぶ船たち!
ぶかぶかと鳴るアコーディオンや賑やかな太鼓の音色に振り返れば、どこかの民族衣装のような派手な扮装の一団が奏でる陽気な演奏に合わせて、ダンスに興じる人々が。
その中のひとり、浅黒い肌のお兄さんが不意に天音へ手を伸ばし、聞いたことも無い言葉で話しかけてきました。
にゃおん。
「……あっ!? さっきの猫!」
足元に、あの右半分が白くて左半分が黒い、不思議な猫。
天音の足首へ懐っこく首を摺り寄せると、聞いたことも無いその言葉の意味が、天音の中へとすんなり解けて飛び込んできます。
「おや、変わった格好だね、旅人さん。この街は今、めでたい
豊漁祭の真っ最中さ! 君もほら、海神様へ捧げる感謝の調べに乗せて、一緒に楽しく踊ろうじゃないか!」
「……ほうりょうさい?」
天音がつぶやくと、お兄さんはこくりとうなずいて、弾けるような笑顔のままに、踊りの輪の中へと飛び込んでいきました。
蒼い空を走る有翼船。踊る人々の、底抜けに楽しそうな様子。山のふもとへゆったりと寝そべる、美しい海と空の街。見れば道には屋台が並んでいて、美味しそうな海鮮料理がずらずら、ずらり。ふんわり良い匂いも漂ってきます。
目をぱちくりとした天音には、何が何だか良く分かりません……どうやら、寝子島では無いどこか。おそらくは、
別の世界へとやってきてしまったようです。
見たことも無い、不思議な光景。
異世界。
「もー、良くわかんないんだよー……でも」
足元でにゃあと再び、白黒の猫が天音を見上げて、のんびりとひと鳴き。いいから楽しんだら? なんて、そんな風に言っているかのようです。
この猫……アルクが、この世界へと連れてきてくれたのでしょうか?
「でも、なんか……わくわくしてきちゃうんだよー♪」
天音は猫へと、にぱっ! 笑いかけました。
墨谷幽です、よろしくお願いいたします~。
ガイドへは、鈴原 天音さんにご登場いただきました。ありがとうございました!
(もしご参加いただける場合は、上記のシーンに寄らず、ご自由にアクションをかけて下さって構いませんのでっ)
このシナリオの概要
こちらのシナリオは、『さまよいアルク』シリーズと題しまして、全4~5回程度からなるシリーズシナリオとなりますー。
寝子島に現れた、白黒の毛並みを持つ猫、アルク。彼はどうやら、異なる世界を移動するという奇妙な力を持っているようで、皆さんは彼と共に、様々な異世界を探訪することになります。
その不思議な体験を通じて、皆さんはやがてアルクの旅の終着点にて、彼が異世界を巡ることとなった理由や、彼の持つ力の秘密を知るでしょう。
第一回目となる今回のシナリオで訪れるのは、美しい海と空を擁する海辺の街。
漁が盛んな土地のようですけれど、漁師たちが駆るのは、なんと羽の生えた有翼船! 彼らは蒼い空へと漕ぎ出し、そこを泳ぐ空魚たちを獲ることを生業としているのです。
街では今、数年に一度の豊漁を祝い、賑やかな豊漁祭の真っ最中。
多くの人々で賑わっており、特に街の中央にある広場では、旅芸人の一座が奏でる音楽に合わせて、歌に踊りのどんちゃん騒ぎ。道端の屋台では、美味しそうな空魚料理がずらりと並んでいます。
彼らの使う言語は馴染みが無いものながら、アルクのおかげなのか、なぜか言葉は文字や音声を超越し、その意味が心へ直接伝わってくるため、意思の疎通には問題が無いようです。
街の人々と一緒に騒ぐのも楽しいでしょうし、この世界ならではの物を眺めたり経験してみるのも良いでしょう。また街の中には、探せば静かに過ごせる場所もあります。
せっかくの機会ですので、思い思いに、不思議な世界を楽しんでみてください!
アクションでできること
今回のシナリオでは、【1】~【4】の中から行きたい場所を1~2つ程度選び、その上でやりたいこと等をアクションへお書きください。
※なお、現地で使われている言語(文字、音声)を理解するには、近くにアルクがいる必要があります。抱きかかえるとか、何となく付いてきたとか、アクションで指定していただければ同行させることができますので、誰かと意思疎通したい場合は連れて行ってみてください。
もちろん身振り手振りとか、ノリと勢いで異文化コミュニケーションしていただいてもOKです。
【1】中央広場
街の中央広場では、旅芸人の一座が陽気な音楽を奏で、その周囲では多くの人たちが自由に過ごしています。
メロディに合わせて、輪を作ってダンスをしたり、歌を歌ったり、大変に賑やかです。
自分から飛び込んでいって楽しむのも良し、巻き込まれてなし崩しに参加することになるのも良し。
ただ眺めて楽しむ、というのもアリかもしれません。
ちなみにこの広場の真ん中には、茜色の巨大な鉱石の結晶が安置されており、ぼんやりと明るい光を放っています。
これはどうやら、アルクの身につけている首輪にはまっている宝石と同じもののようです。
誰かに尋ねれば、これが何なのか教えてくれるかもしれません。
【2】船着場
船着場では、屈強な漁師たちが有翼船に乗り込み、待機しています。豊漁祭では彼らが、訪れた人々を船に乗せ、大空のクルーズへと連れて行ってくれることになっているのです。
空飛ぶ船に乗り、大空の上でめいっぱい風を受け、空魚の群れを間近に見て……なんて経験は、きっと爽快で気持ちがいいことでしょう。
ひょっとしたら、予期せぬ大物などにも出会えるかも。
有翼船は、木製の帆船に、船体の側面からオールの変わりに翼が飛び出したような形をしています。
船は複数あり、指定していただければ誰かと同じ船に乗り込んだり、あえて違う船に乗って手を振り合ったり、といったこともできます。
【3】出店
広場近くの路地には多くの出店が出ており、それぞれに、ここで獲れた新鮮な空魚を捌いた料理の数々が並んでいます。
豊漁祭というだけあって、旅人はそれらの料理を無料で頂くことができます。遠慮なく注文してみてください。
以下のもの以外にも、何か面白い『空魚料理』のメニューを思いついた方は、そちらを指定していただいても構いません。
<メニューの一例>
○ダイオウハネクジラの串焼き
○ナナイロイワシのお造り
○カラスダコの揚げ物
○フルーツジュース
○エール(お酒。未成年はダメ)
などなど。
【4】その他の場所
街には他にも様々な場所があり、特に以下はお祭りの喧騒に比べて人が少なく、ゆったりとした空気が流れています。
しばし休憩したり、親しい人同士でゆっくりしたり、穏やかな時を過ごしたいという方はこちらへどうぞ。
何か、それっぽいありそうな場所を指定していただくのもOKです(内容によっては描写できない場合もあります)
<場所の一例>
○海神様の神殿:漁を司る神様を祀る神殿のようです。
○丘の上の展望台:街を一望することができます。
○浜辺:船着場からは少し離れたところにある浜辺、泳ぐことができます。
アクションには、上記に加えて、
・心情
(巻き込まれてしまって戸惑いながら、嬉々として楽しむ、など)
・不思議な猫アルクについて思うこと、疑問など
といったあたりもお書きいただければー。
『さまよいアルク』シリーズとは?
寝子島に現れた一匹の猫、アルクの持つ不思議な力によって、色々な異世界を探訪していくシリーズシナリオです。
訪れることになる世界は様々で、穏やかで優しい世界もあれば、険しく危険な世界もあるかもしれません。
そうした世界を巡るうち、アルクの力に秘められた謎など、明かされていく秘密もあることでしょう。
その他
●参加条件
特にありません。どなたでもご参加いただけます。
●舞台
異世界。有翼船を駆る漁師たちの暮らす、美しい海と空の街が舞台となります。
この世界の技術レベルはさほど高くなく、金属製の複雑な機械などは無いようです。
なお、ある程度の時間が経過すると、アルクの持つ能力により、参加者は次の世界(次のシナリオの舞台)へと移動します。
●NPC
○アルク
寝子島に突然現れた、不思議な猫。身体の右半分の毛が白、左半分が黒で、茜色の綺麗な宝石をあしらった首輪を身に着けています。
現状ではその原理は不明ながら、アルクは2つの特別な力を持っています。
・1つは、異なる世界を渡り歩く能力。
・もう1つは、世界によって異なる言語を翻訳し、周囲の人々へと伝える能力。
どちらも、アルクの意思などには関わらず、自動的に発動する力のようです。そうした力を除けば、普通の猫と変わりません。
ちなみに、7~8歳くらいのオス。のんびり屋で物怖じしない性格らしく、誰にでもすぐに懐きます。
●備考や注意点など
※上記に明記されていないNPC、及び今回のシナリオには参加していないPCに関するアクションは基本的に採用できかねますので、申し訳ありませんが、あらかじめご了承くださいませ。
以上になりますー。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております!