森蓮は田舎の生まれだ。
三人兄弟の長男で弟と妹が一人ずついた。
父は精肉店で働く遊び人だった。
休日にハイキングと称して出かけるが、山登りより、その後の飲み会や仲間内との小さな賭博を楽しみにしていた。
また、雑談が得意で、道に咲く花の名前を覚えたり、読み終わった推理小説を貸したりしていた。
母は保険屋だった。
保険を相互扶助と思い、自分の仕事に誇りを持っていたが、人の少ない田舎では契約を期待できなかった。
そのせいか、家事や子育ての合間に、録画した子猫寝CLUBのライブをよく見ていた。
両親の友人はお金持ちが多く、酒を持って森の家によく遊びに来ていた。
みな、どちらかと言えば放埓で、なぜ蓮のような真面目な子が生まれてきたのか、家族の間でも不思議がられた。
蓮が善良なのは、偉人の自伝が原因だった。
質素でありながら、大きなことを成し遂げるその姿に感動し、ひとつの目標になった。
非暴力主義も肉を断ったのも、最初は、ただのあこがれからだった。
ある日、天災が起きた。
家族や友人は死に、命を取り留めた蓮も動くことはできず、野生動物に食べられる家族を見続けることとなった。
そのとき蓮は、人に食べられる牛や豚の気持ちを考えた。
同時に、肉を食べらなければ生きられない肉食動物の立場も考えた。
考えることしかできなかったのだ。
理不尽な自然災害に家族を奪われた蓮だったが、彼が立ち直るきっかけとなったのは、皮肉にも自然の美しさだった。
彼の自然への畏怖と宗教観はこうして形作られた。
そして蓮は、被害の噂を聞きつけた桜栄理事長の、気まぐれな奨学金で寝子島高校に入学することとなる。