(前書き)
【時期】らっかみタイム六月ごろ
【要約】五十嵐さんところで懐中時計買いました
【2】
旧市街の表通りから少し外れた、寂れているようにも思える場所に骨董屋『時雨』はあった。
ほんとうに時雨という名前だったのかと三ヶ島は驚くが、それを口に出すとせっかくの取材が流れる可能性もある。
コレは、店内に入るまでは飲み込んでいた。
ほかの店に比べると些か小ぢんまりとしすぎているように思えるのは、おそらく両隣が比較的大きい建物だからなのだろうと、自分を納得させる三ヶ島。
時雨はじいさんを説得してくるからと三ヶ島を店先に立たせたまま中に入ったきり戻ってきていない。
「まったく、客を雨の中待たせてよくやっていけるよー」
「そりゃあ悪かったな」
「あ、戻ってきたんだねー」
うい、と返事の代わりに引き戸を開けて『時雨』の中に招き入れられた。
ややガタついた戸の閉まる音を後ろで聞きながら、白熱灯の明かりで仄かな橙色になっている店内を歩く。
骨董屋にはそぐわないブラウン管のテレビやレトロな洗濯機が転がっていることに三ヶ島は驚きつつ、それらをフィルムに収めていく
「リサイクルショップみたいだねー」
「だろ。最近は需要も少なくなってきたからな、じいさんも必死なんだ」
ふうん、と所在なさげな返答に時雨は少しむっとした顔つきになる。
写真を撮るのに夢中になっているのか、今度は気付かないまま三ヶ島は質問を続けた。
「そういえば、じいさんって言ってたねー。五十嵐くんのご両親はあとを継がなかったのかなー?」
「向いてなかったみたいだ。母さんはそういうのとは無縁だし」
今度は相槌すらなく、カメラのシャッター音が代わりに静寂を打ち消している。
五十嵐は苛立ちを覚えながらさらに眉間の皺を深くした。
無視されているところに少々の憤りを感じているのだろう。それにも三ヶ島は気付かないでいた。
……それから幾ばくかの間をあけて、んーと気の抜けた音を前置きにしてから三ヶ島は本題を切り出した
「五十嵐くんは?」
あぁ?ととうとう苛立ちがこぼれてやっと気がついたのか、三ヶ島はあー、ごめんねーと軽快に発してから嘯いた。
「五十嵐くんは店を継がないのかなー?って思ったんだよー」
この一言で、その場が静止する。
誰も言葉を発することなく、断続的な雨の音だけが場のアクセントとして機能していた。
口を開いては閉じを繰り返していた時雨が、やっと開いた口から音を搾り出す。
「……わかんねぇ」
「んんー?」
「わかんねぇや、正直」
そっかー、と三ヶ島はまた気が抜けた返事を返した。