作業場と言っても今は屋根まで吹き抜けているだだっ広いだけの場所。
業務機械はのきなみ撤去されていて、かつての名残は放置されたいくつかのドラム缶と片隅の巨大な扇風くらいで。
他には種類の異なる数点の椅子とテーブルなどの家財道具、鳴るのか怪しい楽器類とガラクタがあちこちに。
中でも一際異彩を放つのはある一角を占有するオーディオ機器類で、別々の木箱の上に置かれた最新のコンポからLPプレイヤーにカセットデッキなどの古い再生媒体…中には車載用でガワがない基盤むき出しの8トラデッキなんてシロモノまでが新旧入り乱れたチューナーのどれかに繋げられ、あるものは真空管のアンプを経て年季の入った大小様々なスピーカーへ、あるものはウーファーを経てパソコンに接続され…デタラメでなにがどうなっているのかサッパリだ。
更にその全部のメディアがごっちゃごちゃと押し込まれ積み上げられた大きいだけのラックと、ペンキが剥げてけばけばした板張りのベンチに囲まれて、意味不明な柄模様のぺちゃんこなカーペットが敷かれている始末。極めつけにゴツいヘッドフォンとケースが見当らないアコースティックギターが無造作に放置され、なにかにつけて統一感に欠けている。
そんな住人の趣味と気質が反映されまくった空間を勝手に入った猫たちが我が物顔でのさばるテキトー雑談トピック。
誰か来るまでの間はたまーに帰って来たとき猫相手につぶやくだけの場所になりそうな予感。
(炎天下の中、久しぶりの帰宅。しかし、扉を思いっきり解放した途端………)
ぐわっ…!?
(中からは屋外とは異質なモワモワした暑気が猫臭さと一緒にあふれ出す!)
ここの造りじゃしゃーねーか…。
(意を決して構内に1歩踏み込んだ瞬間、
Tシャツが地肌に貼っついて、とても気持ち悪くなった。
外のがナンボかマシだけどアタマがぼーっとして溜め息も出やしない。
とりあえず、のろのろと歩き回って窓という窓を全開にしてみる。
そして、ふらふらと。ふらふらと。どうにかこうにかベンチに到着。
脱力感に全て委ねてお尻と背中を一気に投げ出すと、勢い余って)
……!!
(ベンチごと倒れた。
と思ったら今までどこに隠れていたのか開放してから入って来たのか
野良猫の皆さんがあっちこっちからのそのそと市子を囲んだり上に乗ったり)
暑いっての。…あっちーよバカ離れろ!
(ジタバタ追っ払ってみたけど、自分は倒れたまま。ナニカ考えてる。
涼しい風が吹き込んできて。汗ばんだ体に心地良くて。
思い出されたのは、いつか迷い込んだ不思議な森。めんどくさいハズの記憶)
…
惑えば二人 連なって霧中に散る
伸べる光糸の袂追う 奈落逃れ
饒舌の岩 寡黙なる沼 蛇蝎の原よ 何を塞ぐ?
分かてば別て 故繋げ呼気
保て均しかれ碑に辿る為
独りは無惨 離さじと贄
森出ずるは適えど叶わぬ手
迷えど二人 共を見て霧中を往く
手繰る光糸の端何方に縫われたか…
…
…カンタンじゃねーよな実際。
あのときはアイツが離さなかっただけ。
アイツにゃーソレができるってこった。オッサンめ。
(顔の横でべたっと寝そべる三毛猫に)………ねえ。
あたしにもできっかな。分かんねんだやったコトねーし。
でももしかすっとこの先…そーしなきゃいけねーのかも知れんし。
(返事はない)
…分かんねーよなンなコト。誰にも。