作業場と言っても今は屋根まで吹き抜けているだだっ広いだけの場所。
業務機械はのきなみ撤去されていて、かつての名残は放置されたいくつかのドラム缶と片隅の巨大な扇風くらいで。
他には種類の異なる数点の椅子とテーブルなどの家財道具、鳴るのか怪しい楽器類とガラクタがあちこちに。
中でも一際異彩を放つのはある一角を占有するオーディオ機器類で、別々の木箱の上に置かれた最新のコンポからLPプレイヤーにカセットデッキなどの古い再生媒体…中には車載用でガワがない基盤むき出しの8トラデッキなんてシロモノまでが新旧入り乱れたチューナーのどれかに繋げられ、あるものは真空管のアンプを経て年季の入った大小様々なスピーカーへ、あるものはウーファーを経てパソコンに接続され…デタラメでなにがどうなっているのかサッパリだ。
更にその全部のメディアがごっちゃごちゃと押し込まれ積み上げられた大きいだけのラックと、ペンキが剥げてけばけばした板張りのベンチに囲まれて、意味不明な柄模様のぺちゃんこなカーペットが敷かれている始末。極めつけにゴツいヘッドフォンとケースが見当らないアコースティックギターが無造作に放置され、なにかにつけて統一感に欠けている。
そんな住人の趣味と気質が反映されまくった空間を勝手に入った猫たちが我が物顔でのさばるテキトー雑談トピック。
誰か来るまでの間はたまーに帰って来たとき猫相手につぶやくだけの場所になりそうな予感。
(かたすみのベンチに腰かけて。目をつむってヘッドホンを押さえながら高らかに歌ってる)
…
虜囚は寝ずの番と自嘲にも飽いて胞忍ぶ戯曲
舞い込みあらたかなる火の粉 心に問い声潜め
天に負けじまたたく海原割り飛沫く獣さえ泡沫
夜は夢の御伽 謳えど却しむる欠片求め
世は星の夜伽 叶う望み裁つ願いは遠き遠き
宛無き恰の島に独り にわかの縁易く手放さん
数煌む天子の中独り 何想う 白明と共に失せて…
…
(ヘッドホン外す)…つー歌がな。ここんとこアタマん中でぐるぐるしてんだが。
なーどー思うよオマエ(かたわらで毛づくろい中のハチワレに)ひとつキタンのない意見頼マス。
…あ(猫は「知るか」とばかりぶいっと無視。そのままどっか行った…)…つれないねー。
(再度ヘッドホン装着。だんぼーるはうすでもらった飴を口に放り込む。音楽に没頭)