作業場と言っても今は屋根まで吹き抜けているだだっ広いだけの場所。
業務機械はのきなみ撤去されていて、かつての名残は放置されたいくつかのドラム缶と片隅の巨大な扇風くらいで。
他には種類の異なる数点の椅子とテーブルなどの家財道具、鳴るのか怪しい楽器類とガラクタがあちこちに。
中でも一際異彩を放つのはある一角を占有するオーディオ機器類で、別々の木箱の上に置かれた最新のコンポからLPプレイヤーにカセットデッキなどの古い再生媒体…中には車載用でガワがない基盤むき出しの8トラデッキなんてシロモノまでが新旧入り乱れたチューナーのどれかに繋げられ、あるものは真空管のアンプを経て年季の入った大小様々なスピーカーへ、あるものはウーファーを経てパソコンに接続され…デタラメでなにがどうなっているのかサッパリだ。
更にその全部のメディアがごっちゃごちゃと押し込まれ積み上げられた大きいだけのラックと、ペンキが剥げてけばけばした板張りのベンチに囲まれて、意味不明な柄模様のぺちゃんこなカーペットが敷かれている始末。極めつけにゴツいヘッドフォンとケースが見当らないアコースティックギターが無造作に放置され、なにかにつけて統一感に欠けている。
そんな住人の趣味と気質が反映されまくった空間を勝手に入った猫たちが我が物顔でのさばるテキトー雑談トピック。
誰か来るまでの間はたまーに帰って来たとき猫相手につぶやくだけの場所になりそうな予感。
気分屋ってコトは感覚で生きてんだろツマリ。
そーやって自然に感覚磨いてる…イヤ磨かれてるっつーベキか。だから…
(相手の表情を「猫の顔と同じ…かね」なんて思いながら。
鏡合わせの要領で、同じ側に首をかしげて。微笑はほがらかな満面の笑みに)
…ホラ。幽霊の捉え方ヒトツですら。あたしよりロマンがある。
まー実際「出る」かどーかは…1泊してみてのお楽しみっつーコトで。
あたしは楽しめねーけどそーゆーの楽しむ感覚が全く分からんワケでもねー。
どーしてンなハナシになってんのかとか調べたり考えてみんのもイイし。
怪談つーとつまらんオチもザラだから知らんままでもイイのかも知れんし。
事前に伝えたとーりココやココに関するコトはなんでも好きなよーにしてくれ。
サテ…(くいーっと一気飲み)………っ(じわっと来て鼻をしかめる)
…ふう。そろそろバイト行くし着替えてーし。ついでに上案内すっから。
(ラムネ瓶をブラブラさせながら、空いた手でついて来いと手招き。階段へ…)