陽がすっかり落ちたころ、工場と寝子電の騒音に混じって自家発電機の駆動する音が聞こえる。
穴と言う穴をキャンバスやベニヤ板でふさがれた第3倉庫――夜な夜な殴り合いの試合や、会合のようなものが開かれているという噂のここが、音の発信源のようだ。
自家発電機の電力で中は照明があるが、薄暗い。
そんなところで、今日も今日とて誰かしらがここに集まりにくる。
殺し合いじゃなく、殴り合いというところがポイントだな。
殺し合いなら最初から人間だと思わなければいいが、殴り合いはそうはいかない。
殴れば拳が傷つくし、相手だって血を流す。我慢大会みたいなものだ。
それと殺すのは駄目だ。死体の処理が面倒だし、日本の警察は何より賄賂もなにも効果がない。
どんな些細な証拠でも見つけ出して、必ず誰かしらの情報にたどり着き、刑務所いきになるだろう。
この倉庫も取り壊され、二度と集まることはできない。
死なない程度に、殴り合いだ。
審判はリタイアの申告を無視せず、死なないようにやってくれ。
死なないのであれば血にまみれようがなにされようが、試合は試合だ。
拳というよりは、互いに痛めつけあって、痛みを感じることで生きていると感じる。
俺は少なくとも、そう思っているよ。
じゃ、死なない程度に痛めつけあってくれ。