遊園地の敷地内にある野外音楽堂
石造りのステージでは嘗て手品やお芝居、ヒーローショーが演じられていたが、今は演者も観客もなく静まり返っている
ステージには壊れたピアノが一台打ち捨てられている……
ああ……他意はないんだが
君はどうも躁的というか陽気な性向に思えてね。
粘土細工とかコツコツ地道な作業に精を出すタイプに見えなかったというだけさ。
アクセサリーも手がけるのか。器用だな。
ほう、これは……
(なんともいえない微妙な表情でタラコ唇なクマさんがついたイヤホンジャックをつつき)
……随分とまたユニークなデザインというか。進化系統樹のどのあたりに属するのか興味が尽きないな
中学生の自分からライブハウスに出入りしてたのか。早熟だな。今の子は皆そうなのか?
友人の影響でクラッシックはよく聞くが、最近の音楽には疎くてね。
……君の弟?へえ、兄弟がいるのか。その口ぶりだと苦労してるみたいだが……
練習熱心……というのかな、あれは(何かを思い出すように遠くを見て)
かといって練習一筋という訳でもない。交際範囲も広かったし……当時から色んなサークルに気まぐれに出没していた。
一時期寝子島クラシック同好会でもピアノを弾いていて、家庭教師のバイトの合間によく付き合わされた
……そばに突っ立っているだけで、別にいてもいなくてもいいと思うのだが。
11年前、あいつの弾くピアノを初めて聞いた。
音に痺れて動けなくなる体験は生まれて初めてだった。
俺は運命も一目惚れも信じないが、悪魔に魅入られるとはあの瞬間を言うんだろうな。
個人的な感想か。だからこそ尚更聞きたいのだが……無理強いはしないよ。
人は主観を通してしか人を理解できない。
俺も理解していたつもりで、あいつのことをなにもわかってなかった。直観では君にさえ劣るかもしれない。
……何を言ってももう手遅れだがな
(呉井さんに片方のイヤホンを貸し)
……どうだ?
この曲を聞きながら目を閉じるとあいつを思い出す
君にはどんな光景が見える?